なぜ武漢ウイルスではなく中国ウイルスなのか

トランプ大統領が新型コロナウイルス(COVID-19)を「中国ウイルス(Chinese virus)」と呼んだことが話題になった。中国外交部の趙立堅報道官が米軍がウイルスを持ち込んだとツイートしたことに対する応酬だが、地名を使って呼ぶなら普及している「武漢ウイルス(Wuhan virus)」と呼ばないのは何故か。

これには大きく分けて2つ理由がある。1つ目は大統領選に向けて対中強硬路線を再開するためである。

米中関係に関しては2019年12月に「第一段階」の通称合意を行い、米中貿易戦争は一旦停止した形である。当初のトランプ大統領は、大統領選までにダウ平均株価を30,000ドルにまで上げて余裕の再戦という予定だったはずである。

しかし、新型コロナウイルスや原油ショックに伴い株価は暴落しており、このままではトランプ大統領が落選するリスクすら出てきた。大統領選イヤーの株価パフォーマンスが低いと落選リスクが高まる。リセッション入りはほぼ間違いないと言え、今後信用リスクなどで大型の倒産などが発生するようであれば、深刻な経済状況に陥りかねない。

そうすると経済的な成果や株価で大統領選を戦うことができない。新型コロナウイルスに対してトランプ大統領の初期対応が遅かった事などを追求されれば不利な戦いを強いられることになる。

その時、経済以外での理由で支持を集めることが有効になる。それが対中強硬路線の再開であり、「武漢ウイルス」と呼ぶよりも「中国ウイルス」と言った方が、そのメッセージは伝わりやすい。

そして第2に、この対中強硬路線を進める上で「武漢」という名前では都合が悪い。「武漢」という名称が「中国」と結びつかないからだ。

多くの米国人にとってアジアとは辺境にある国であり、日本の位置や北朝鮮の位置なども曖昧な人が多い。2017年にニューヨーク・タイムズが行った「世界地図での指差し」による調査では、米国人の7割は北朝鮮の場所が分からない。ましてや武漢の場所は分からないし、それが本当に中国とイメージが結びついているかは怪しい。

それでも、「中国」であれば多くの米国人も名前が分かるし、少なくとも大体の場所は分かるはずだ。

経済的な影響が数値として現れるのは寧ろ春以降である。大きな打撃を受けるのはほぼ確実なので、貿易戦争停戦からの方針転換となるが、経済とは別に対中強硬路線を復活してナショナリズムで勝とうとするのは自然な戦略である。

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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