タイの3空港を結ぶ新幹線プロジェクトの狙い

10月24日、タイ政府とタイのコングロマリットCP(チャルン・ポカパン)ホールディングス主導のコンソーシアムは、3空港(スワンナプーム国際空港、ドンムアン空港、ウタパオ国際空港)を結ぶ高速鉄道計画の契約に署名した。

本稿では、このプロジェクトの内容を整理し、その狙いについて解説する。

プロジェクト概要

総延長220kmを最高時速250kmを走らせるこの計画は、タイの主要な東部経済回廊(EEC)政策の中でも重要なインフラプロジェクトの一つで、官民パートナーシップを通してタイ国営鉄道(SRT)に採用された。

プロジェクトは総額2,245億バーツ(74億ドル)で、政府は総資金の60%を提供する。コンソーシアムは50年間にわたり鉄道を運行・管理する権利を有することとなっており、EEC地域で新しい都市が建設され、多くの雇用が創出されると期待されている。

2024年が開通予定となっており、

  • ドンムアン空港
  • バンスー中央駅
  • マッカサン駅
  • スワンナプーム空港駅
  • チャチュンサオ駅
  • チョンブリ駅
  • シラチャ駅
  • パタヤ駅
  • ウタパオ空港駅

という9駅を結び、バンコク中心部であるマッカサン駅からウタパオ空港駅までを最短45分で結ぶ計画となっている。

参考:アジアトラベルノート「タイ首都圏3空港を結ぶ高速鉄道の建設が正式決定 所要時間や完成予想動画など」2019年10月24日

空港の混雑緩和

プロジェクトには多くの目的があるが、まず第一に空港の混雑緩和がある。バンコク都内にスワンナプーム国際空港とドンムアン空港と2つの国際空港があるが、ドンムアン空港は場所がやや不便であること、スワンナプーム国際空港には拡張に限界があることなど、混雑問題が深刻である。

交通渋滞なども深刻であり、少しでも人々の流れを分散させたいというのが第一の狙いで、それが現れているのがウタパオ国際空港への延伸である。

ウタパオ国際空港は、タイのリゾートして有名なパタヤから最も近い空港であるが、それでもパタヤから1時間半ほど時間がかかる。こうしたアクセスの悪さから、バンコクからパタヤに行く人も多い。鉄道は殆ど本数が無いので、基本的にタクシーやバスなどを利用することになるのだが、それでも2時間以上はかかるので、どちらから行くにしてもあまりアクセスが良いとは言えない。

ウタパオ空港まで高速鉄道が運行されれば、バンコク-パタヤ-ウタパオ空港のアクセスが良くなる上、海外からの到着地も分散されるというのが狙いである。

到着地の分散という狙いでは、バンコク西部のナコーンパトム県に新空港を建設する計画も提案されており、今後ますます増える人の流れを緩和する手段の一つとして期待されている。

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混雑緩和としては、バンスー中央駅を接続することも重要である。今までタイで鉄道と言えばファランポーン駅であったが、100年以上の歴史があり老朽化していることから、新しいターミナル駅として2021年に開業するのがこの駅である。バンスー駅中央駅も既存の地下鉄MRTとも接続しているので、交通の便は大きく改善されると考えられる。

パタヤとMICE戦略

MICE(Meetings, Incentives, Conference and Exhibitions)  の開催地としてバンコクはよく選ばれるが、タイはそれに加えてパタヤもMICEの目的地として、観光客だけでなく専門家やビジネスパーソンを集めようとしている。

以前、筆者はパタヤのアクセスや「風土」などからMICEにはあまり適さないと述べたが、高速鉄道が通るのであれば話は別である。

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前節の通り、空港・パタヤ・バンコクを結ぶ高速鉄道は観光客にとっても便利であるのは勿論、短時間で移動できるのであればビジネス目的でも十分に使えるだろう。運賃試案もマッカサンからパタヤまででも片道270バーツ(約1,000円)と安いので、観光客も増えると思われる。

MICEとしては、風土問題を解決すれば十分に可能性はあると言える。

チャチュンサオなど郊外開発

冒頭でも少し触れたが、雇用創出や途中経路の新都市開発など経済的な狙いである。途中に通る駅で重要なのはチャチュンサオだろう。

チャチュンサオはバンコク東部にある郊外都市であり、観光としてはピンクの巨大ガネーシャが有名である。

バンコクの不動産が高騰し過ぎているので、今は郊外の開発が進んでおり、チャチュンサオなど郊外都市の住宅開発が進みつつある。高速鉄道が通るようになれば、都市圏もより拡がると考えられる。

忘れちゃならない一帯一路

タイ政府とタイのコングロマリットCPホールディングス主導のコンソーシアムによる計画ではあるが、純粋にタイのプロジェクトではない。コンソーシアムには中国鉄建(China Railway Construction Corporation)も名を連ねているのがポイントだ。

諸外国の例のように無理な債務を背負わせて港湾などを奪おうというような計画ではないが、CNNではEECがタイへの外国投資の80%を占める地域であり、中国企業などによる開発の思惑などが指摘されている。また、中国の国営企業が建設のほぼ全てを担当している北東部の路線との関連から、最終的には中国南部の雲南省にまで接続するといった一帯一路特有の計画も指摘されている。

参考文献

[1]RAILWAY TECHNOLOGY, “Thailand signs $7.4bn high-speed train project agreement”, 25 Oct 2019

[2]CNN, “Thailand hopes to have bullet trains running by 2023”, 17 Nov 2019

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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