近年、企業の国際化が進むにつれて、国際的なM&Aもますます増加している。M&Aでは、契約条件面、財務面、危機管理面など多角的にデューデリジェンスを行う必要があるが、日本では主に契約条件や財務面のみが重視され、危機管理面でのデューデリジェンスについてはあまり語られないのが現状である。この記事では、国際的なM&Aにおける不正リスク管理を理解するために役立つ3つのマップを紹介する。
1. 世界各国の腐敗度
以下のマップは、賄賂、公共または民間部門による不適切な影響力、公的資金などの横領という観点から各国の腐敗度をスコアにしている。
スコアが高いほど汚職は抑制されており、国家としての腐敗度は低いことを意味する。
以下は、World Justice Projectが発表した最新ランキングに沿って汚職の抑制スコアが最も高い国と低い国をまとめたものである。
汚職が少ない国TOP10
1位 | デンマーク | 0.95 |
2位 | ノルウェー | 0.95 |
3位 | シンガポール | 0.91 |
4位 | スウェーデン | 0.91 |
5位 | フィンランド | 0.89 |
6位 | オランダ | 0.88 |
7位 | ニュージーランド | 0.87 |
8位 | 香港 | 0.84 |
9位 | カナダ | 0.83 |
10位 | イギリス | 0.82 |
… | … | … |
13位 | 日本 | 0.82 |
汚職が多い国TOP10
1位 | コンゴ | 0.16 |
2位 | カンボジア | 0.24 |
3位 | カメルーン | 0.26 |
4位 | ウガンダ | 0.26 |
5位 | ボリビア | 0.27 |
6位 | マダガスカル | 0.27 |
7位 | ケニア | 0.27 |
8位 | メキシコ | 0.27 |
9位 | ギニア | 0.29 |
10位 | モーリタニア | 0.29 |
日本は腐敗度が低い国トップ10からはやや外れてしまったが、全体で13位と世界的には汚職度の低い国と言える。
2. オープンデータバロメーター(情報開示度)
オープンデータバロメーターとは、公的な情報開示へのイニシアチブ、オープンデータプログラムの実装度、社会全体におけるオープンデータの影響力を総合的に測ったスコアである。
なぜオープンデータが重要なのか?それは、情報公開が整っていると、不正に対する監視がし易くなり、腐敗や癒着等、取引上好ましくない事項が発生しにくくなるからである。
以下、世界で最も情報開示度の高い国と低い国である。
情報開示度が高い国TOP10
1位 | カナダ | 76 |
1位 | イギリス | 76 |
2位 | オーストラリア | 75 |
3位 | フランス | 72 |
3位 | 韓国 | 72 |
4位 | メキシコ | 69 |
5位 | 日本 | 68 |
5位 | ニュージーランド | 68 |
6位 | アメリカ | 64 |
7位 | ドイツ | 58 |
8位 | ウルグアイ | 56 |
9位 | コロンビア | 52 |
10位 | ロシア | 51 |
情報開示度が低い国TOP10
1位 | シエラレオネ | 22 |
2位 | サウジアラビア | 25 |
3位 | グアテマラ | 26 |
4位 | パナマ | 30 |
5位 | 中国 | 31 |
5位 | コスタリカ | 31 |
5位 | トルコ | 31 |
6位 | パラグアイ | 34 |
7位 | 南アフリカ | 36 |
8位 | インドネシア | 37 |
9位 | チリ | 40 |
10位 | フィリピン | 42 |
日本は情報公開度世界5位にランクインしているが、現実には、データに現れない部分での問題も存在する。例えば、非上場企業の情報開示が進んでいない、訴訟歴が裁判所で公開されない、法人登記簿に詳細な情報が記載されない等である。
他国の企業のデューデリジェンスにおいては、法人登記簿に記載されていない株主や役員の詳細な身元、訴訟履歴も意識して確認する必要がある。
3. マネーロンダリング・テロ資金供給リスク
最後に、マネーロンダリングおよびテロ資金供与リスクを示したマップを紹介する。
上のマップは、バーゼルAML指数として国際的に知られており、マネーロンダリング及びテロ資金供与リスク、汚職度、財務会計基準、政治的な収支公開度、法の支配度を総括的に考慮したスコアである。
他2つのマップに比べて、日本が125ヵ国中リスクが高い国73位にランクインしているのは驚きである。
マネーロンダリング・テロ資金供与リスクが高い国TOP10
1位 | モザンビーク | 8.22 |
2位 | ラオス | 8.21 |
3位 | ミャンマー | 7.93 |
4位 | アフガニスタン | 7.76 |
5位 | リベリア | 7.35 |
6位 | ハイチ | 7.34 |
7位 | ケニア | 7.33 |
8位 | ベトナム | 7.30 |
9位 | ペナン | 7.27 |
10位 | シエラレオネ | 7.20 |
マネーロンダリング・テロ資金供与リスクが低い国TOP10
1位 | エストニア | 2.68 |
2位 | フィンランド | 3.17 |
3位 | ニュージーランド | 3.18 |
4位 | 北マケドニア | 3.22 |
5位 | スウェーデン | 3.51 |
5位 | ブルガリア | 3.51 |
7位 | リトアニア | 3.55 |
8位 | ウルグアイ | 3.58 |
9位 | スロベニア | 3.70 |
10位 | イスラエル | 3.76 |
日本は、アメリカやヨーロッパなどの欧米諸国と比較するとマネーロンダリングへの危機感が低いのが現状である。というのも、欧米諸国の方が資金洗浄に関する監視や罰則が厳しいからである。
日本の法律では、反社会勢力の活動や麻薬取引の資金洗浄には一定の効果があっても、世界基準のマネーロンダリング規制と比べると随分心許ない。その結果、2019年には、ナイジェリア人の詐欺グループによる大規模なマネーロンダリングが日本国内の金融機関で行われるという事件が発生している。
4. 危機管理デューデリジェンスまとめ
取引先の国の腐敗度、情報公開度、マネーロンダリングのリスクを知ることは、M&Aや海外取引の際のリスクマネジメントにおいて重要であると同時に、グローバルスタンダードなデューデリジェンスを行う上で必要不可欠である。
日本国内のみの常識や法制度に捉われず、より高い危機管理意識をもってリスクを回避する努力を行うことが国際的なM&Aの成功の鍵である。
出典:海外M&Aにおける不正リスク調査に役立つ3つのマップ 最も安全な国と危険な国は?