先月7月10日にマレーシアは貧困ライン(PLI)を引き上げ、世帯月収2,208リンギット(約56,200円)に設定した。2005年に定められた旧基準980リンギット(約25,000円)から倍増以上となり、これは長らく貧困ラインの基準が絶対的貧困(1人1日当たり1.9ドル)だったことから考えれば大幅な改善である。しかし、未だその金額も未だ不十分で、かつ、貧困対策としても始まったばかりというのが実態である。
マレーシアは中産国としてボトム20(B20)の貧困に対策できるように貧困ラインを引き上げるように求められてきた。当サイトでも、国連特別報告者がマレーシアを批判した件を取り上げたことがある。
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当時の報告では、世帯の平均収入の60%以下という基準で見ればマレーシアの貧困率は15~20%となる。この種の相対的貧困率は国がいくら豊かになっても一定水準以上の貧困率が記録されるという問題がある。しかし、マレーシアの旧基準では貧困率はわずか0.2%、新基準でも5.6%に過ぎない。
マレーシア政府はB20やB40への貧困対策を進めていく方針であり、今回の引き上げをきっかけに何らかの現金給付などが行われる可能性は高い。しかし5.6%では貧困全体を多く把握できるわけではないし、何よりも最低賃金が引き上げられていないという問題もある。
また、個人単位ではなく世帯単位という面での問題も大きい。これは世帯人数で勘案していないが故に、例えば2人世帯で月収2,000リンギットであれば貧困だが、4人世帯で月収3,000リンギットだと貧困にならない。1人当たり所得で考えれば、(同居による一人あたり家賃の低下などを考慮しても)後者の方が貧しい生活である可能性が高い。
更に、最近のマレーシアは多次元貧困指数(MPI)を重視するようにもなってきているが、こちらは基本的な衣食住や教育などが数値基準で、絶対的貧困率よりも生活実態を適切に捉えることができるが、それでもやはり低所得国向けの指標であることには変わりがない。
参考文献[1]:The Edge Markets, “World Bank lauds Malaysia’s revision of poverty line”, 17 Jul 2020