AI Singapore(AISG)によると、早ければ2020年を目処に、増えるAI人材需要に対処するために、人工知能エンジニア(機械学習エンジニア)向けの国家認定フレームワークを展開する予定である。
AISGは、シンガポール国立研究財団(NRF)が創設した国家AIプログラムであり、シンガポールの研究機関やAIベンチャー、AI製品開発企業などを結びつけ、研究の推進や人材育成を担う組織である。後述するAI Apprenticeship Program(AIAP: AI見習いプログラム)が、IDCのDX Awards(デジタルトランスフォーメーションアワード)を受けている。
参考:AI Singapore
AI認定イニシアチブでは3つのレベルの熟練度に分けられ、技術的なスキルだけでなく、具体的にどのようなプロジェクトに取り組んだかについての実務経験も評価され、認定されればAI認定エンジニア(AICE)となる。
前述したAIAP(AI見習いプログラム)と関連して受けられる評価テストの延長としての位置付けで、AIAPで認定されるAIアソシエイトエンジニアに加え、スキルテストと実務経験によって以下のようにレベル分けされる。
認定レベル | 技術レベル |
AIアソシエイトエンジニア | ユースケースを解決するためにAIモデルを構築できる |
AI認定エンジニアレベル1 | AI研究を再現したり、中程度の複雑さのAIアプリケーションを構築・展開できる |
AI認定エンジニアレベル2 | AI研究を再現したり、大規模なAIアプリケーション製品を構築・展開できる |
AI認定エンジニアレベル3 | 複数の複雑なAIアプリケーションを構築・管理できる |
具体的な認定水準の基準としては例えば、レベル1であれば、
- 1年以上のAIでの実務経験と60時間以上の講座学習
- 50万ドル以上のAIプロジェクトを1つ以上経験
- 実際のプロジェクトを通して開発したAIモデルの提出
が必要となる。認定も3年ごとに更新しなければならず、最新の情勢にも付いていくことが求められる。
このフレームワークの背景には、市場には多くのAI関連のトレーニングコースやプログラムがあるが、AI開発スキルを認定するための国際的な基準が無く、多くの企業にとって採用する際の障壁が大きいことがある。
採用時に知識を問うたり実装テストを行ったりすることもできるが、コスト面で問題になる。一般的なITスキルやプログラミングについては国家資格や大手ベンダーによる資格があるのに対し、AIに関しては国家的・国際的な資格試験は見当たらない。
例えば日本においても、日本ディープラーニング協会が一般的な人工知能の知識としてG検定、エンジニア育成としてのE資格を作り、普及を図っているが、現時点では検定・資格の認知度は非常に低い。諸外国でも同様の動きがあるが、いずれもまだまだこれからである。
また、実績をアピールするにせよ、機械学習システムで広く公開されているものはほんの一部で、内部で利用するシステムなども多い。こうしたものは実績として公表できないケースも多い。
手っ取り早くスキルをアピールしやすいのは、GitHubで公開したプログラム、技術ブログでの執筆、あるいはKaggleなどの機械学習コンペでの実績などである。こうしたものも重要だが、評価において統一性に欠けるという問題もある。
どの程度うまくいくかは未知数だが、AIAPの場合は
- 2ヶ月のAIコースワーク
- 7ヶ月の現場でのトレーニング
の二本立てになっており、これは毎月3,500~5,500シンガポールドル(28~44万円)の奨学金も得られるフルタイム研修で人気がある。100以上ある実際のAIプロジェクトで実践を積み重ねる形である。
更にAISGは、AIAPの前段階として、
- 10万人が無料のAIリテラシー講座AI4Eの受講
- 25,000人がAIの実践的基礎講座AI4Iの受講
も目標としており、広くAIリテラシーの普及からエンジニアの初歩、応用的な機械学習エンジニアまで幅広いロードマップを敷いている。(下図参照)
人口が少ないシンガポールだからこそ出来ることとも言えるが、国家的に集中的にAI人材育成を行うという取り組みは非常に興味深いものである。
参考文献:AI Singapore, “AISG AI Certification Initiative”, 29 Oct 2019