3月9日のOPEC+交渉決裂以降、22日頃まではボラティリティが高い相場が続き、一時20ドルを下回るWTI原油価格だが、最近は各国の金融政策などで株式市場が安定化した事を受け、落ち着きを取り戻し、じわじわと上昇し24ドル台まで戻してきた。
確かに米国での操業停止や戦略石油備蓄(SPR)の増加など需給バランスを改善する材料はあるが、今後の世界的な石油需要の下落はそれ以上であり、更にサウジアラビアの原油値下げや4月以降の増産など、供給超過の状況は何も変わっていない。そして過去の原油価格戦争は長く続いてきた。
ここ数日の回復基調は、経済政策への期待と株式市場の安定化だけでなく、トランプ大統領やポンペオ国務長官によるサウジアラビアとの交渉に関する報道が相次ぎ、上昇期待が高まってきたことが理由である。しかし、交渉において現時点では具体的な成果は何も出ていない。
ブルームバーグ「原油価格戦争に米介入、ポンペオ長官がサウジに市場安定回復を促す」2020年3月26日
更に、26日のG20臨時首脳会議で議長国であるサウジアラビアに対し、増産を控えるように提案するのではないかという観測が出ており、何らかの成果が出れば大幅に上昇余地があるが、これでサウジアラビアの強硬姿勢が変わる保証はどこにもなく、大きなポジションを取るのは危険であろう。
ウォール・ストリート・ジャーナル「米、サウジに増産自粛呼び掛けへ G20サミット」2020年3月26日
バンク・オブ・アメリカの18~20ドルよりも更に悲観的な予測もある。Rystad Energy社のアナリストは、原油需要の低下に伴って世界の石油貯蔵施設は平均で3/4まで上昇しており、この状況が続いて貯蔵施設がいっぱいになれば1バレル10ドルまで低下する可能性があると指摘している。タンカー輸送により余裕のある貯蔵施設で貯蔵するという方法も考えられるが、そのためには更に原油価格が低くなければ輸送コストの面で成立しない。
The Guardian, “Oil price may fall to $10 a barrel as world runs out of storage space”, 25 Mar 2020
10ドルというのは筆者も懐疑的である。サウジアラビアの原油採掘コストが8~10ドル程度であり、この水準だと損益分岐点を下回る。それでも貯蔵施設の問題というのは大きなリスクである。
もっとも、短期的な価格変動が危険というだけであり、長期的には原油株は投資対象として比較的安全性が高いものの一つと思える。
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