arXivやSSRNなどでは日々プレプリント論文が掲載されており、新型コロナウイルスについても例外ではない。査読前なので内容には特に注意が必要だが、いち早く最新の研究動向を知ることができるので有用だ。以下ではSSRNより投資や情報収集のアイデアとなると思われる最新の論文を幾つかピックアップして紹介する。
検索トレンドによる予測
最初に紹介するのはBaidu Indexを用いて新型コロナウイルスに関係する症例についての検索トレンドにより、その後の新型コロナウイルスの新規症例数を予測するという研究である。3月24日に公開されたばかりである。
Qin, Lei and Sun, Qiang and Wang, Yidan and WU, Ke-Fei and Chen, Mingchih and Shia, Ben-Chang and Wu, Szu-Yuan, Prediction of the Number of New Cases of 2019 Novel Coronavirus (COVID-19) Using a Social Media Search Index (3/10/2020). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3552829
乾いた咳(dry cough)、発熱(fever)、胸の痛み(chest distress)、肺炎(pneumonia)、コロナウイルス(coronavirus)といった検索ワード(実際には中国語)のトレンドとその後の新規症例数をリッジ回帰など5つの手法を用いて予測するモデルが作られた。
検索トレンドと新規症例数には6~9日のラグがあり、例えば下図のようにコロナウイルス・肺炎の検索トレンドはその後の新規症例数を先行する形をとる。但し、中国では2月13日に感染者数のカウント方法を変えて再度戻すなどしているので、2月10日以降に使えるかは不明である。
これは中国における例だが、例えば米国などにおいてもGoogleトレンドを用いて同様の症例に関する検索ワードを用いて新規感染者数を予測するというアイデアを用いることはできるだろう。
次に紹介するのはGoogleトレンドを用いた分析で、構造VARモデルを用いることにより、コロナウイルス(coronavirus)の検索トレンドが1単位増えれば、失業(unemployment)の検索数は1週間後に2.56倍増え、1ヶ月後に6.05倍増えることを明らかにした論文だ。これは3月23日に投稿された。
Yilmazkuday, Hakan, Coronavirus Effects on the U.S. Unemployment: Evidence from Google Trends (March 23, 2020). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3559860
以下のグラフが分かりやすいが、coronavirusの検索増加の後にunemploymentの検索が急増する傾向が分かる。同様にinterest rate(金利)やinflation(インフレ)の検索動向も変わるのも興味深い。
筆者も数日前にGoogleトレンドと失業保険申請件数との関連の考察を書いている。この種はアイデアのままに沢山のキーワードを探していく地道な作業が必要となるが、単純ながら有効な手法である。
関連記事:Googleトレンドと失業保険申請件数(2020年3月21日)
ウイルスのリスク許容度への影響
次は、1月23にちの武漢封鎖の前に地元に帰省した(逃げた)武漢の大学院生のリスク許容度、自信の運に対する考え、経済的な見方、他者への信頼度について調査したものである。2019年10月16日に同様の調査がされており、その結果と武漢から帰省した時の心理的状態と比較するものである。
特に武漢で厳しく検疫の対象になったかどうかが大きな影響を与えており、リスク許容度に関しては平均で25%低くなるという結果が出ている。
Bu, Di and Hanspal, Tobin and Liao, Yin and Liu, Yong, Economic Preferences during a Global Crisis: Evidence from Wuhan (March 23, 2020). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3559870
これはすぐに何かに使えるということではないが、ウイルスに対する恐怖というのは先日の暴落を取り上げるまでもなく大きい事を示すだけでなく、行動ファイナンスにおける緊急時の投資家行動などの分析にも用いることができるだろう。
法的サービス需要の増加
最後に紹介するのは法学での論文である。パンデミックの最中やその収束後に訴訟や会社の清算など弁護士の需要が急増すると予想される。2020年7月の司法試験を適切に運用して新しく弁護士資格を付与するためには規制当局と連携して取り組んでいく必要がある事を6つの選択肢とともに提案している。
選択肢は以下の6つである。
- 司法試験の延期
- オンライン試験
- 少人数ずつでの試験実施
- Emergency Diploma Privilege
- Emergency Diploma Privilege-Plus
- 他の弁護士の監督下での業務
Diploma Privilegeはロースクールのディプロマを取得することで、司法試験合格前に一定期間、ロースクール所在地の州に限って業務を認めるものである。4はパンデミックを理由にこれを多くの州で適用するという選択肢で、ウィスコンシン州などで成功例がある。5は、付加的なオンラインコースやロースクールの認証など「プラスワン」の条件を満たすことでDiploma Privilegeを容認するというアイデアだ。
Angelos, Claudia and Berman, Sara and Bilek, Mary Lu and Chomsky, Carol L. and Curcio, Andrea Anne and Griggs, Marsha and Howarth, Joan W. and Kaufman, Eileen R. and Merritt, Deborah Jones and Salkin, Patricia E. and Wegner, Judith W., The Bar Exam and the COVID-19 Pandemic: The Need for Immediate Action (March 22, 2020). Ohio State Public Law Working Paper No. 537 (2020). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3559060 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3559060
この提案自体よりかは、パンデミックで法的サービス需要が急増するということ自体が重要である。英国などでは弁護士法人の上場も多く、あまり注目されていない物色対象として有効かもしれない。