Value Walkが、野村證券米国法人のレポートを元に、米中貿易戦争における最大の勝者10ヶ国をまとめている。その内容には概ね同意であり、内容を補足しながら紹介していこう。
10位:ブラジル
米中貿易戦争の過程で中国は、大豆などの輸入先を米国からブラジルにシフトし、ブラジルから中国への輸出量も増えたので、結果的にGDPを0.7%押し上げる効果が予測される。
ブラジルは数年前の経済危機からの回復過程であり、ここ3年間の株価パフォーマンスも高い。
9位:シンガポール
元々中国が主要貿易相手国であるシンガポールだが、更に中国への輸出が増えている。特に増えているのが金輸出であり、中国の豊富な金需要を支えている。
また、企業の拠点の移動先としても有望で、ASEAN展開の拠点としてもシンガポールは重要な選択肢の一つである。こちらも貿易戦争がGDPを0.7%押し上げる効果があると予想されている。
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8位:韓国
米国は、電子部品や自動車部品などの輸入の一部を中国から韓国にシフトしており、GDPを0.8%押し上げた。
7位:メキシコ
アメリカ大陸での経済的な結びつきや貿易交渉の成果もあって、米国からメキシコへの輸出が急増している。2019年はGDPの押し上げ効果はこちらも0.8%だと予想されている。
6位:香港
中国が香港の自治性を損なわせようとする中、中国と香港の貿易が増えておりGDPを1%押し上げると予想されている。
一方で、米国と香港の結びつきを失わせる可能性も指摘され、諸刃の剣である。
5位:アルゼンチン
こちらもブラジルと同様に中国からの農産物輸入が増えているのが理由だ。大豆だけでなく綿花など多数の農産物貿易に影響しているので、GDPを1.2%押し上げると予想されている。
4位:マレーシア
電子機器など中国からの生産拠点の移動先の一つとして選ばれているのがマレーシアである。
また、中国もマレーシアから電子制御やパーム油などの輸入量を増やしており、GDPの押し上げ効果は1.3%と予想されている。
パーム油の輸入についてはマレーシアも対策すべき問題となっており、貿易戦争の展開によっては更に恩恵を受ける可能性もある。
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3位:チリ
アルゼンチンやブラジルと同様に、大豆などの農産物や銅の中国への輸出が増えている。更に、米国への輸出も増えると予想されており、1.5%のGDP上昇効果があると予想されている。
2位:台湾
半導体関連で強い台湾は、元から米中への輸出が多いが、現政権の方針も相まって米国との結びつきを強化しており、中国への輸出は減っているが、米国への輸出増加がそれを上回り、GDPを2.1%押し上げる効果があるとされる。
1位:ベトナム
米中貿易戦争によるGDP押し上げ効果の予想は7.9%と圧倒的であり、断トツで最大の勝者と予想されている。
マレーシアもそうだが、チャイナ・プラス・ワンの場所として最も有望であり、当サイトでも以前から、生産拠点や物流の成長について取り上げてきた。
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まとめると、米中貿易戦争の勝者の特徴は、
- 中国との貿易強化
- 米国との貿易強化
- 中国からの生産拠点のシフト
のいずれか又はその複数である。基本的に米国陣営に属すのか、中国陣営に属すのかで考えられ、貿易にせよ生産拠点でも結果的にパイの奪い合いでしか無く、世界経済的にはマイナスだが、恩恵を受ける国はこれ以外にも多く考えられるだろう。
参考文献:Value Walk, “Top 10 Biggest Winners From The US-China Trade War”, 6 Jun 2019