イスラム金融もフィンテックも比較的新しい分野であるが、ましてやイスラム金融におけるフィンテックといえば更に未発達の分野である。市場も未発達な上、金融規制などもまだまだである。
ロンドンを拠点とするデジタル金融企業Elipsesが、UK Islamic Fintech PanelおよびSalaam Gatewayと共同し、世界180の新興金融機関に対して調査を行い、The Global Islamic Fintech Report 2019(グローバル・イスラム・フィンテック・レポート2019)として発表している。
ここでは、
- 調査対象企業の概要
- どういう分野が注目されているのか
- シャーリア適格の実態
について概観する。
なお、レポートはSalaam Gatewayで会員登録すれば無料でダウンロードできる。
参考:Salaam Gateway, The Global Islamic Fintech Report 2019 2019
調査対象企業
レポートにイスラム・フィンテックとついているが、フィンテック企業だけに調査しているわけではない。イスラム・フィンテックを扱う企業は半数である。
英国企業による調査というだけあり、調査対象企業は英国にやや偏りが見られる。しかし、イスラム金融を中心としたレポートであり、中東やASEANなどイスラム教徒が多い地域を中心に広く調査されている。
このうち、イスラム・フィンテックを扱う企業の大部分はシリーズA以下のスタートアップである。従業員数で見ても1-10人が68%を占め、11-25人で20%、26-100人で8%、100人以上は4%である。
こうしたスタートアップが多いことに留意して内容を見ていく。
注目されているセクター
どのようなセクターの事業を手掛けているか(複数回答)を見れば傾向が見えてくる。元データがグラフであり正確な数値が掲載されていないのでおおよその数値となるが、その上位5セクターは以下の通りである。
- ソーシャルレンディング(P2P Lending)/クラウドファンディング:64%
- ブロックチェーン/暗号通貨:約40%
- 決済/送金:約35%
- KYC(顧客確認)/AML(アンチマネーロンダリング):30%弱
- 投資/資産管理:30%弱
上位2つは最近の流行であり、小規模なスタートアップでも手掛けやすい分野でもある。このうち、特にソーシャルレンディングやクラウドファンディングの成長が期待されているのがASEANである。
イスラム教国においてフィンテックを手掛ける企業のうち、イスラム金融専業か従来型金融と両方を手掛けているかについて見れば、大きく46%と42%と分かれており、逆に従来型金融しか扱っていないのは少数派である。
シャーリア適格とESG
前節の通り、フィンテックを扱う企業の大半は専業家はさておき、殆どがイスラム金融を扱っている。しかし、シャーリア適格認証を受けている企業の割合は32%にとどまり、(能動的にシャーリア規則に違反していないとはしつつも、)46%は「倫理的であること」や「ESG/SDGsに準拠していること」を重要と考えているというのは特徴的である。
これはスタートアップの段階で認証を受けるのにコストがかかるということもあるが、ESGとシャーリア適格で被る部分も多いので、国際的に通用するESGや倫理基準などに準拠することを想定している企業が多いからだと考えられる。