先日8日、マレーシアで27年ぶりにポリオの感染が発表された。ボルネオ島で生後3ヶ月の乳児が感染したということである。
参考:AFP「マレーシアで27年ぶりにポリオ発生 生後3か月の乳児が感染」2019年12月9日
また、今年9月にはフィリピンでも26年ぶりにポリオの発生が確認されており、この両方を結びつける議論が多いが、各情報を整理して見えてくるのは両者は全く無関係である可能性だ。
参考:ジェトロ「26年ぶりにポリオの発生を確認、ミンダナオ島とルソン島で」2019年9月27日
まず、ポリオウイルスは主に以下の4つの型が確認されている。
- 野生型ポリオウイルス
- ワクチン由来ポリオウイルス1型~2型(cVDPV1~cVDPV3)
ワクチン由来は、ワクチンを接種した人や環境試料などから抽出された分離株で、今やポリオ感染は野生型よりもワクチン由来ウイルスによるものが多い。
ここで誤解してはならないのはポリオワクチンが危険という意味ではない。WHOのポリオ撲滅プログラムの責任者パスカル・ムカンダ博士は、ワクチン由来のポリオに感染する人は、ワクチン未接種の人が不衛生な環境において糞尿などを介してポリオに感染するのが原因である。
ポリオにおいて集団免疫を確保するには95%以上の予防接種率が必要だが、上記のワクチン由来ウイルスによる感染を誤解し、マレーシアでは予防接種を拒否するケースが増えている。フィリピンではそのそも貧困・公衆衛生の普及率の低さからポリオワクチンの接種率は7割弱にとどまっており、ポリオウイルスに対して脆弱な状況である。
実際、フィリピンでは26年ぶりの症例確認以来、12月3日時点で既に8人の症例が確認されており、台風などの影響も相まって感染が更に拡大する可能性が指摘されている。
さて、フィリピンとマレーシアでのポリオ発生の関連性についてだが、これは両国で発生しているポリオの型を比較することが重要である。
フィリピンは8症例のうち、6症例がワクチン2型(cVDPV2)である。一方でマレーシアでの症例はワクチン1型(cVDPV2)である。
東南アジアでは2018年1月~2019年6月にかけて、インドネシア、ミャンマー、パプアニューギニアでポリオウイルスが検出されているが、いずれもワクチン1型である。
そうすると特殊なのはワクチン2型が蔓延しているフィリピンであり、これは東南アジアからの由来でない可能性が示唆される。
では、そもそもポリオウイルスがどこから来たのかと言えば、可能性として高いのは、WHOが定める「国際的に感染を拡大させるリスクがある国」として、
- 野生型、ワクチン1・3型:アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリア
- ワクチン2型:コンゴ、ナイジェリア、シリア
が指定されており、人の出入りなどから考えれば、黄熱病などの流行のハブとなっているナイジェリアなどは感染源の一つとして可能性がある。ナイジェリアでは現にポリオも流行も問題となっており、こうした国でもワクチン由来が主因である。
関連記事:ナイジェリアでの黄熱病の流行と各国の警戒
参考文献[1]:unicef, “Situation Report 10 Polio Outbreak – Philippines”, 3 Dec 2019(PDF)
参考文献[2]:The Guardian, “Polio outbreaks in Africa caused by mutation of strain in vaccine”, 28 Nov 2019
参考文献[3]:VAX Before Travel, “Polio Case Confirmed in Malaysia”, 8 Dec 2019
参考文献[4]:Bernama, “Polio virus probably brought in from outside Malaysia – Dr Dzulkefly”, 9 Dec 2019