本来、一羽の鶏について、可食部を比較すればムネ肉よりもモモ肉の方が多い。それでも日本ではモモ肉の方が高いのは「人気があるから」である。ムネ肉の方を好む人もいるが、健康志向だったりといった理由も多い。
対して従来の米国人は圧倒的に「ムネ肉好き」である。日本が海外に食文化を紹介する時に「唐揚げ」が出てくるケースが意外に多いのだが、それに対する反応も「ムネ肉の料理は無いのか」といった声が少なくない。
しかし、最近の米国ではモモ肉市場が急成長しており、ムネ肉市場は成長が止まりつつあるようだ。
下図は米国小売市場におけるムネ肉(Breasts)とモモ肉(Thighs)の販売の年間成長率の推移である。2019年は途中なので全体は5月までが基準となっている。
これによると、ムネ肉の成長率は鈍化し今年はほぼゼロに近い状態だが、モモ肉の成長率は高い。2019年は少し落ちているのは成長鈍化の兆候なのか景気後退の兆候なのかは分からない。
モモ肉の売上は10年で9倍にもなっているようで、ムネ肉との価格差も縮まっている。下図はムネ肉とモモ肉の1ポンド当たりの価格差(スプレッド)である。米国ではムネ肉をwhite chicken、モモ肉をdark chickenと呼ばれることが多く、以下のようなタイトルがついている。
筆者の考えには、この背景には、
- 健康志向の人はムネ肉から植物性由来肉(代替肉)や大豆などにシフト
- 民族の多様化に伴う海外のモモ肉好きの人口割合の増加
があると思っている。食は保守的というので、筆者としては味覚が大きく変わったというよりかは市場構造が変わったのではないかと考えている。
参考文献:Bloomberg, “Americans Are Finally Getting Tired of Chicken Breasts”, 18 Jul 2019