要約
- ポール・クルーグマンは小さな出来事が積み重なって2019年にリセッション入りすると予想
- ティム・マラニーは3つの理由(金融政策、貿易交渉、バブル)を挙げて反論
- 一見意見が真逆に見えるが、両者が見ているフィールドが異なるだけである
ポール・クルーグマンは世界的な景気後退入りを予測し、「我々には効果的な対応ができない」と警告している(CNBC)
- 2019年後半(または来年)に景気後退入りする可能性が非常に高いと発言
- 一つの事象だけで景気後退は起きにくいが、一連の経済的な逆風が吹くと減速の可能性を高める
- トランプ減税が効果的ではなく、技術の成長も「バブルの収縮」の予兆がある
- 経済政策立案者の希望であるソフトランディングは難しい
- 現在景気後退に最も近いのがユーロ圏
クルーグマンが間違っている理由と、アメリカに賭けるべき理由(Market Watch)
- 1970年代後半から1980年代初めの不況は、インフレに対処するために度を越した利上げを行ったときに発生した。しかし、現状はインフレ率は2%を下回っており利下げも予定している。
- トランプはメキシコやカナダ、欧州の顔を立てるために中国との貿易交渉をエスカレートさせているだけである。
- ITバブルや不動産バブルのような大きなバブルの兆候が無い(S&P500のPERは16倍ほどで、債券でも企業負債は多いものの金利は低い。また、家計部門でも学生ローンの総債務は非常に多いが破綻率は低い。)
解説
国際貿易と経済地理学の研究で2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンが2019年中のリセッション入りを予想した事に対して、CNBCの記者ティム・マラニーは3つの理由を挙げて反論している。
多くのエコノミストが経済成長の鈍化を予測する中、クルーグマンはソフトランディングは難しいとしている。特定の大きな出来事でリセッションに陥るのではなく、貿易問題、ヨーロッパの景気後退や財政赤字といった小さなネガティブ要因が積み重なって起こると主張しているのが特徴である。
対してマラニーは、過去のリセッション入りとは状況が違ってインフレではないし、ITバブルや不動産バブルのような近年の分かりやすいバブルも発生しておらず、懸念事項の米中貿易交渉に至ってはパフォーマンスだと言っているわけである。
これだけ意見が「対立しているように見える」のは、クルーグマンがあくまでも実体経済を見て話をしているのに対して、マラニーはマーケットを見て話しているからである。(前者は経済学者であり、後者はMarket Watchの記事であるから当然である。)
マイナス成長に至るかどうかはともかく、経済成長率が落ちていくという意見に対しては殆ど異論が見られない。各種マクロ経済指標も悪化しつつあるからである。但し、株式市場などが落ち込むかどうかはまた別の話である。
先日のレバレッジド・ローン周りの楽観論と悲観論で紹介した「米国のGDPに占める企業負債比率」と「ハイイールド債のデフォルト率」 の乖離を示すグラフは、まさにマラニーが3つ目の理由の例として挙げている「企業債務は多いが金利は低い」ということと全く同じ事を言っている。
80年代後半の事例では、こうした乖離が発生した後に金融市場は過熱していき、その後バブルが弾けるに至っているので、経済成長率と金融市場のパフォーマンスは短期的には必ずしも一致しない。
要するに、両者の意見は全く対立しているように見えて両立する主張であるとも読めるのだ。
参考文献
Market Watch, “Opinion: Why Krugman is wrong, and why you should bet on America”