要約
- 連邦準備制度理事会はSNCプログラムレビューでレバレッジド・ローンについての信用リスク管理に警告を発した
- ローン市場全体は健全に見えるデータも多く、楽観論も増えてきている
- 負債比率とデフォルト率の乖離など不自然なデータも多く警告は当然と言える
規制当局はレバレッジド・ローンを警告するにも関わらず、データはそれを裏付けない(American Banker)
- 連邦準備制度理事会がSNCプログラムに基づくシンジケートローンのレビューを公表した
- 「不合格」と評価されたローンの割合は9.7%(2017年)から6.7%(2018年)に低下
- 数値の改善の要因は石油・ガス業界の情勢改善
- しかしレビューでは「信用リスク管理の慣行を改めるように」と銀行に促している
- その理由は低評価のレバレッジド・ローンの割合が高いことである
- American Banker紙は必要以上にリスクを警告するような内容に疑義を発している
解説
米国連邦準備制度理事会は、 3つ以上の規制金融機関によって保有されているシンジケートローンについての レビューを年2回公表している。主たる目的は「異なる銀行が共通のローンのリスクを一貫して評価しているかを判断すること」、つまり「リスクの過小評価が無いか」を調べることにある。レビュー対象となる貸付規模は1億ドル以上で、総額で4.4.兆ドルに達する。
昨年頃からレバレッジド・ローンに対する危険性を訴える規制当局のコメントや投資家からの警告が増えてきており、結論としてはそれと似たものである。
米国の公的な信用リスク評価は10段階で分類されており、”pass”(合格)未満である下位4つspecial mention、substandard、doughtful、lossに分類されたローンの割合は2018年に低下している。
一方でspecial mentionと評価されたローンのうちの73%、下位3つ(substandard、doughtful、loss)を合わせた特にデフォルトリスクが高いclassifiedと評価されたもののうち86%がレバレッジド・ローンであり、これがレビューでの警告の根拠となっている。
記事ではデフォルトリスクが高いローンのうちレバレッジド・ローンが占める割合についての時系列データを公表するように公開質問状を提示すると共に、必要以上に投資家に不安を煽るものとして批判し、楽観的な見方を示している。最近の報道を見る限り、2019年に入って楽観論が増えた印象がある。
しかし筆者としては当局の警告は当然のものと考えている。
- 市場の過熱
- 警告
- 一時的な調整
- 楽観視
- 更に過熱
というのは歴史上何度も繰り返してきており、昨年12月の状況が3に該当し、今は4に当たると見ている。
レバレッジド・ローン市場が「危うい橋を渡り始めてきている証拠」は他にもある。
まず、以下のように新規発行されるレバレッジド・ローンのうち投資適格級に満たない格付けのもの(グラフ緑色部分)の割合が年々増えてきている。勿論、リーマンショック後の規制により格付けがされるようになった貸付の割合が増えたことも一因ではあろうが、BBB以上の高格付けの割合も年々減少しているので、悪化している事は確かだろう。
また、昨年9月にMoody’sが”WEEKLY MARKET OUTLOOK”で興味深い指摘をしている。以下は「米国のGDPに占める企業負債比率(黄色)」と「ハイイールド債のデフォルト率(緑色)」の推移をグラフ化したものであるが、最近は企業負債比率が増加してきているにも関わらず、デフォルト率が下がってきているのだ。これに関して同レポートでは80年代後半と非常に状況が酷似しているというのだ。「80年代後半に何があり」「その後どうなったか」については敢えて書かずとも分かるであろう。
参考文献
Moody’s, ” WEEKLY MARKET OUTLOOK “, September 27, 2018(PDF注意)