経済成長著しいベトナムであるが、その労働生産性は依然として低い。もっとも、日本は人のことは言えない(関連記事参照)が、ベトナムはベトナムで特徴的な問題があるようだ。以下は、グエン・スアン・フック首相が労働生産性について語ったことについての記事だ。
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首相曰く「ベトナムは低賃金労働の道を歩み続けることはできない」(VN Express)
- 技術革新による労働生産性の向上は国の発展の決定的要因となると明言
- 熟練労働者に魅力的な賃金を提供する必要があるとも指摘
- 労働省では、労働者が国際認証を受けられるようにオーストラリアとドイツのカリキュラムを導入
- 専門家は、インダストリー4.0の進展で未熟練労働者は人工知能によって脅かされると指摘
- ベトナムの労働生産性はアジアでも低い水準で、シンガポールの1/18、マレーシアの1/16、タイや中国の1/3に過ぎない
補足
米中貿易戦争と安い賃金を理由にチャイナ・プラス・ワンの対象としてベトナムが多く選ばれ、繊維産業などを中心に投資が活発である。
しかし、AIによるオートメーション化やIoTなどの新技術の発展により、未熟練労働者の仕事が無くなっていき、今の低賃金労働路線では経済成長に限界があるのではないか、というのがフック首相の懸念である。
ベトナムの労働生産性が伸び悩んでいるのは、ベトナム企業が、アパレル産業などの業務の海外委託を受けているだけで、自国の市場や技術が成長していないからだという見方がある。
Hung Yen縫製株式会社のNguyen Xuan Duong社長は、同じベトナムのアパレル産業でも外資系企業とベトナム企業で労働生産性に大きな差があると指摘している。
外資系企業の場合は特定市場に向けた専門的な製品を作るため、ベトナムの労働者も1年ほどで熟練工になることができる。一方で、ベトナム企業は海外企業から指示された加工を行うだけで、専門的な技術身につけることが難しいという問題がある。
こういう意味では、ベトナム人労働者の特性として労働生産性が低いとは言えないが、いくら潜在性があったところで、行う業務が未熟練労働ばかりであれば技術的に成長できない。
一方で以前に紹介した、自国の靴ブランドを育てるというコンセプトで始まったJunoといったスタートアップの動きは、労働生産性を高めるという観点でも有効だと考えられる。
また、記事にもある通りベトナムも国策として労働生産性の向上に取り組んでいる。日本はベトナムの低賃金労働者を活用したいという思惑があるようだが、ベトナムの勢いや取り組みの積極性から考えれば、日本の安易な労働力確保の動きは近視眼的に見える。
参考文献
VN Express, “Vietnam cannot continue down low-cost labor path: PM”, 6 May 2019
アパレル・リソース in インドシナ「ベトナム:ベトナムの労働生産性は低い理由は、海外からの委託加工だからか?」2015年11月25日