要約
- 2018年から上昇し続けていたタイバーツが昨年10月以来の下落幅を記録した
- ウボンラット王女を首相候補として指名したことを国王が反対したことが理由
- タイの政治と王室の関係について解説している
上昇が止まらないタイバーツ(Bloomberg)
- 2018年にアジアの新興国で最も通貨のパフォーマンスが高かったのはタイバーツ
- 2019年に入っても上昇は止まらず対米ドルで4.2%の上昇
- 海外投資の流入、原油安による経常黒字、低インフレ率、輸出や海外観光客の増加予想、米中貿易戦争に伴うドル安圧力などがバーツ高の要因
- 2019年後半の利上げ見込みも上昇圧力になると予想されている
- タイ中央銀行も生産性向上に寄与する機械の輸入のチャンスと見ており楽観的
- 懸念事項は3月の総選挙や中国などの政治リスク
タイバーツが彼の国の政治的な曖昧さを教えてくれる(CNBC)
- タイバーツは2月8日(金)にドルに対して2018年10月以来の下落幅0.7%を記録した
- ウボンラット王女がタクシン派の国家維持党の首相候補に指名された事をワチラロンコン国王が反対したことが原因
- 未だバーツは強いものの、国家維持党が解党処分を受ける可能性まで生じており、下落傾向が続く可能性が高いと見られている
解説
米中貿易戦争による製造拠点のシフトなどの影響もあり、バーツ高傾向が続いてきたタイであるが、ここにきて再び政治リスクが露呈する形となっている。
(今回で何回目か分からないくらいの)クーデター以降、軍による暫定政権下で、何度も延期されながら、ようやく3月に総選挙を実施できそうだという状況になった上での国家維持党の解党危機である。
世論調査では暫定軍事政権のプラユット暫定首相が総選挙においても首相候補として筆頭であり、親王政のタクシン派は一発逆転となるような手が求められていた。というのも前国王は非常に尊敬されていたが、現在の国王は素行が悪いのであまり尊敬されているとは言い難い。親王政のタクシン派といえども過去の汚職もあって以前より求心力が落ちているのが実態である。
そこでウボンラット王女の擁立である。ウボンラット「王女」といえども結婚している(現在は離婚)ので、日本の皇室と同様、籍が無くなっているので、厳密には「一般国民」である。しかしタイにも「王室は政治に直接関与しない」という原則がある。そしてタイには不敬罪があるので、強く批判することは難しい事を利用すれば、「かなりグレー」な所を突きつつ、選挙戦を戦おうとしていたと考えられる。
しかし王様自身が「不適切である」と批判し、(尊敬の度合いはさておき)なんやかんやで「王様が言うことは一番」という考えが強いタイでは、立候補を強要させることは難しかった。しかも選挙管理委員会が処分を検討しているとあって、もし解党処分にもなれば再び総選挙が延期される事にもなりかねない。こういった状況からタイバーツの上昇が止まってしまったのである。
参考文献
Bloomberg, “There’s No Stopping Thailand’s Baht”
CNBC, “What the Thai baht is telling us about the country’s political limbo”