筆者はイナゴの佃煮くらいなら食べられるが、タガメやイモムシの類になると姿形がそのままだと遠慮してしまう。個人的には人造肉に頑張ってもらいたいが、同様に注目される昆虫食についても知っておく必要があるだろう。
世界の昆虫食について広範にまとめられた文献として最も有名なものの一つは、国連食糧農業機関(FAO)が2013年に発表した”Edible insects – Future prospects for food and feed security”(以下、「FAOレポート」と呼ぶ)である。190ページに渡る本報告書は、世界中で食べられている昆虫の種類や供給時期、栄養価や家畜としての有効性などについて整理するとともに、昆虫の収穫や養殖による社会経済・環境への影響調査や食料安全保障や産業投資に繋げるための法体系の構築の必要性などを訴えた大作である。
以下にPDFとして公開されているのでリンクを掲載しておく。重いPDFであり、また、表紙と6章の最後(p. 81-)に多くの昆虫の写真が掲載されているので、見たくない人は注意である。
7年前の文献であり、ここでは全体を俯瞰することはしないが、注目したいのは「昆虫」という性質上生じる季節性である。今後昆虫スタートアップなどに投資が集まってくると、供給や売上の季節性なども問題になってくると思われる。
昆虫食に関係する検索ワードには様々なもの(edible insects, insect foodなど)が考えられるが、英語圏で増えてきているのはbug foodとeat insectsという2つの用語である。以下がその検索トレンド(2015/01/29-2020/01/29)だが、eat insectsの方が季節変動が強いように見える。5月と9~10月にピークがきており、冬季の検索数が低い。
用例としては英・米・カナダ辺りがbug foodの用例が多く、インド・インドネシア・オーストラリアなどがeat insectsの用例が多い。昆虫食が一般的なタイなどがあまり入っていないように思うが、それは英語での検索から少ないからである。いずれにしてもeat insectsの季節性を重視することは、アジアを中心とした地域の昆虫食の季節性を見ることに近似される。
実際、文化的にも気候的にも昆虫食が中心なのはアジアや中南米、アフリカ南部など温暖な地域が中心である。以下は国別に食用の昆虫として認識されている種の数が整理されたものだが、中国やタイを中心としたアジア、中南米ではメキシコなど温暖・熱帯地域の方が食用として使われる昆虫の種類が多い。
5月と9月に昆虫食トレンドのピークが来るのはFAOレポートとも整合的である。以下のメキシコのロス・レジェス・メツォントラにおける「食用昆虫(Edible insects)」と「山菜(Edible wild plants)」と「トウモロコシと豆類の収穫」の種類が月別に示されたものである。これによれば、食用昆虫が最も多様なのが5月で、全体の60%は2~9月に食べられるということが分かる。山菜など野生植物の収穫が盛んなのも5月と9月であり、昆虫食の検索トレンドとも相関している。
メキシコにおいては秋の昆虫は少ないが、一般的には春が昆虫が活発になる時期であるが、日本人のイメージとしては「昆虫=秋」なのではないだろうか。それは他の昆虫食が盛んな国でも同じである。以下はコンゴのトゥンバ湖地区における食事に出てくる「魚(Fish)」「イモムシ(Caterpillar)」「狩猟(Game)」の頻度と月間降水量が示されているが、9月(S)が最もイモムシ(Caterpikkar)が食べられる時期であり、2月(F)や5月(M)よりも多い。なお、この表に出てくるGameは「狩猟」によるタンパク源の摂取を意味する。
次はタイで食べられる昆虫が示されたものである。年中暑いタイはいつでも虫が多いが、それでも雨季・乾季・暑気と季節の移り変わりに応じて昆虫の活動にも季節性が当然ながら存在する。中でも昆虫食として世界的には最もポピュラーと言っても良いコオロギ(Cricket)の旬は10月であり、やはり秋は食用昆虫の供給のピークと言って良いだろう。そして5月はコオロギ亜科(Ground cricket: Gryllinae, field cricketなどとも)が旬であり、ピークの両方と一致しているのが興味深い。