要約
- ナイジェリアは原油安と少ない外国投資流入により深刻な経済状況
- 大統領選挙の争点は国立石油公社(NNPC)の民営化
- 汚職の問題も深刻で3度連続で大統領選挙が延期された
- イスラム教徒とキリスト教徒で両候補者の支持は分断している
ナイジェリアの原油産業は選挙に先立ち岐路に立つ(OZY)
- ナイジェリアの国営製油所の稼働率は11%で赤字体質だが、歳入の半数以上を占める
- 大統領選挙の最大の争点は国立石油公社の民営化
- 国の深刻な問題は汚職・貧困・外国投資の少なさ
土壇場の選挙延期によりナイジェリアはタンクから水をこぼすかのように富を失った(Bloomberg)
- 延期を受けてラゴスNSE30は1.6%の下落、債券利回りは上昇
- ハイネケンの子会社は4年ぶりの大幅下落10%
- 円滑な選挙の期待により1月末から上昇トレンドだった
- 過去2回の大統領選挙も延期している
- 選挙の為に移動した有権者、選挙役員なども大きな影響を受けている
ナイジェリア人は重要課題である宗教によって酷く分離している(GALLUP)
- ナイジェリアはイスラム教徒が約半数でキリスト教徒がやや少ない程度
- 現職大統領の支持率はイスラム教徒は73%、キリスト教徒は26%と3倍の開き
- ナイジェリア政府への信頼率はイスラム教徒で55%、キリスト教徒で38%
- ナイジェリア軍への信頼率はイスラム教徒で86%、キリスト教徒で60%
解説
深刻な貧困問題に追い打ちをかけるかのように原油安が到来し、2015年に現職のムハンマド・ブハリ大統領が就任して以来、ナイジェリアは深刻な経済状況が続いていた。失業率は8%から23%にまで跳ね上がり、世界銀行によると、PPPベースで1日1.9ドル未満の国際貧困ラインで生活する人が8,700万人と全人口の45%にも達する。株式市場のリターンも世界で最もパフォーマンスが悪く、ドル建てで50%以下に下落している。景気が悪いので海外からの投資も流入せず、仕方なく赤字体質だが石油精製をしなければならないという悪循環である。
それでも海外メディアがナイジェリアの大統領選挙を注目しているのは「アフリカ最大の産油国」であり、特に今回は国有石油会社であるナイジェリア国立石油公社(NNPC)の民営化が争点となっているからだ。唯一の有力な対抗馬であるアティク・アブバカルはナイジェリアの石油サービス業Intels Nigeriaの共同創設者でもある実業家でもあり、NNPCの民営化を第一の公約として掲げている。
一方で現職のブハリ大統領は石油大臣なども歴任しているだけあり、国主導の官民パートナーシップにより製油所を復活させる事を公約に掲げている。いずれの候補者も原油産業を建て直し、海外からの投資やインフラ開発を進める事を掲げているが、そのアプローチが異なるのがポイントだ。
しかし、国の経済の劣悪さや汚職の多さに加え、双方のバックグラウンドを考えれば、選挙が滞りなく実施されなかったのもうなずける。アル・ジャジーラに「ナイジェリア人はもう一度2人の悪魔のうち小さい方を選ばざるを得なくなるだろう」と言わしめるほどだ。
現状はイスラム教徒による現職大統領の支持率が非常に高く、人口的にはキリスト教徒が4割ほどを占めるので、選挙は蓋を空けてみなければ分からない面もあるが、やや現職大統領が有利な状況と言えよう。公正な選挙が行われるように願うばかりである。
参考文献
OZY, “NIGERIA’S OIL INDUSTRY STANDS AT CROSSROADS AHEAD OF ELECTIONS”
Bloomberg, “Nigeria Counts Cost of Last-Minute Vote Delay as Stocks Tank”
GALLUP, “Nigerians Deeply Divided by Religion on Key Issues”