要約
- ヨーロッパの大手小売業者でさえ売上予測に販売機会損失を用いていない企業が多い
- 機会損失を含めなくても(機会損失が発生した)売上予測自体は当たるので問題が表面化しにくい
- 他の国の小売業者でも同様の問題を抱えている可能性がある
新しい研究によりファッション小売の売上予測の90%が機会損失を見落としていると判明(Neogrid)
- ヨーロッパで展開する40社(ヨーロッパのファッション市場の売上高の23%)からの調査で判明
- 需要ベースで在庫を補充している小売業者は49%
- 小売業者の38%は自社の売上予測に不満を持っている
解説
サプライチェーンソリューションを提供するNeoGrid(ネオグリッド)は、自社イベントFashion Linkで記事の内容の調査結果を発表した。
ヨーロッパのファッション市場の売上高の23%を占める小売業者からの調査であり、大手を中心にサンプルとしては申し分ないと考えられる。
需要に基づいて在庫を補充している小売業者は半数に達するが、売上予測に販売機会損失を利用していない企業が90%ととはかなり驚くべきことだろう。
販売機会損失の計算はそれほど難しくない。
- 過去の結果から日毎の売上の離散確率分布を計算
- 在庫1つ当たりの売れ残り損失を計算(販売期間と保管コストから計算)
- ある在庫数の場合に発生する機会販売損失個数に売上分布から発生確率を掛ける
- これに更に売れ残り損失を掛ける
- 全パターンの在庫個数で計算して比較
これは新聞売り子問題(newsboy problem)と呼ばれるオペレーションズリサーチにおける古典的な問題だ。勿論、在庫切れの場合に他社で買われてしまう「信用失墜リスク」などを含めるのが現代的な解法であるが、半数は需要ベースに基づかずに在庫補充をしているというのを見れば、高度な話ではなく最低限の計算すら行っていない企業が多いと考えられる。
しかも問題なのは90%の売上予測に大きな問題があるにも関わらず、問題と認識していない企業が62%もあるということである。過去の売上と経済状況だけに基づいて売上予測を立てれば、実際に機会損失が発生していても売上予測はそこそこ当たるものである。しかし、それは収益を最大化できているわけではないが表面的には予測に満足するということだろう。
ヨーロッパの大手小売業者がこの状況であるということは、他の国でも同様の状況にある可能性もある。逆に言えば、少しの改善で更に売上が伸びる企業も多い可能性があることも示唆される。