イラン軍司令官殺害という「おとり商品」

米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したことが「想定外」だという見方が出ている。元のニューヨーク・タイムズの記事は無料では殆ど読むことができないので朝日新聞の記事を引用すると、

ニューヨーク・タイムズによると、この攻撃を受け、米軍幹部らはソレイマニ司令官の殺害を「最も極端な選択肢」としてトランプ氏に提示した。国防総省は歴代大統領に非現実的な選択肢を示すことで、他の選択肢をより受け入れやすくしており、今回もトランプ氏が選ぶことは想定していなかったという。

朝日新聞「司令官殺害、トランプ氏が決断するまで 国防総省に衝撃」2020年1月5日

と、「まさか選ぶなんて」と米軍幹部が証言したという。

無論、これをピュアに受け止めている人は少ないだろう。現実的に遂行可能な作戦であるし現に成功している上、それほど「有り得ない選択肢」というわけでもない。本当に有り得ない選択肢というなら核攻撃などを入れれば良いので、国防総省も選択される可能性やその影響を十分に理解した上で提示したと思われる。

ニューヨーク・タイムズという媒体であることを考えても、トランプ大統領に批判的な幹部の証言を取り上げたと予想できる。

トランプ大統領としては株価が暴落することは再選に不利に働くので、大統領選挙まで株高を維持したいはずだ。(だからこそ、ネガティブな情報は株式市場がリスクオンムードである時に出してくるわけだ。)

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トランプ大統領の意図としては、エミン・ユルマズ氏が指摘するように弾劾訴追の延期だろう。

それでも「あまり選んでほしくない」もしくは「選ばれる可能性は低い」と予想する選択肢を提示し、他の選択肢に誘導したかったというのは理解できる。

この種の「おとり」となる選択肢は行動経済学的にもよく言われているし、価格戦略でもよく採用される。

代表的なのは飲食店における松・竹・梅である。もし5,000円と10,000円の2つのコースしか無ければ、10,000円という価格設定は高く印象づけられやすく、5,000円のコースが売れやすい。しかし、

  • 松:20,000円
  • 竹:10,000円
  • 梅:5,000円

という構成にすれば、竹を選ぶ人が多くなるというが実験的に多く確かめられている。松という高価格帯があるので竹が安く見え(あるいは松は贅沢過ぎると思えたり)、松と梅の価格差から梅を選ぶことによる損失回避(梅を選ぶと安かろう悪かろうを引くのではないかという懸念を回避)の意識が働くからだ。

それでもお金に余裕がある人は松を注文するわけであり、経済的な状況から梅で我慢する人もいる。トランプ大統領は松を注文してしまったというわけだ。

もう一つ「おとり」らしい価格戦略は、例えば、

  • 親子丼:600円
  • 小うどん:300円

というメニューがあり、どれか一つを注文するとすれば、どちらかが特に好き嫌いというわけでなければ、食べたい量や財布の事情に合わせて注文は大きく二分するだろう。

しかし、

  • 親子丼+小うどんセット:700円
  • 親子丼:600円
  • 小うどん:300円

というメニュー構成にすれば、お腹が空いていない人や節約したい人は小うどんを注文するだろうが、そうでなければ相対的に「お得に見える」セットを注文する人が増え、親子丼単体の注文はかなり少なくなる。

似たようなおとり商品を用意しているのが日本経済新聞で、2020年1月6日時点で新聞および電子版の価格設定は、

  • 電子版のみ:4,277円/月
  • 紙版のみ:4,900円/月
  • 紙版+電子版:5,900円/月

となっており、紙版のみの価格に比べて電子版のみの価格が高く見えるので、紙版+電子版に誘導しようという価格戦略だと解釈できる。

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