香港は逃亡犯条例を未だ「撤回」していない

香港の逃亡犯条例の改正案が「撤回」されたとして市場が楽観的なムードになっているが、筆者はそうは考えてはいない。10月1日の国慶節(建国記念日)で建国70周年を迎える中国にとって、どうにかしてデモを抑制したいというガス抜き目的でしかないと考えられる。

そもそも逃亡犯条例を「撤回」したというのは香港メディアが報じ、ブルームバーグなどが”scrap”と訳して拡散したに過ぎず、林鄭行政長官は「撤回」とも「廃案」とも言っていない。

林鄭長官は法案(逃犯條例)が「壽終正寢」(終末を迎えた)としか言っていない。英語での説明では”the bill is dead”(法案は死んだ)と書かれていることから、またミスリードを招く原因となったと思われる。

公民党主席の梁家傑(アラン・リョン)氏は、林鄭長官が最後まで「撤回」という言葉を口にしなかったことに対し、法律を施行させないための手続きには「撤回」と「延期」しかなく、「終末」という状態は存在しないので、「終末」という表現は何ら法的効力を持たないと批判している。

香港衆志(デモシスト)の幹部で、決闘前に雨傘運動で中心的役割を果たした周庭(アグネス・チョウ)氏は、(本当に逃亡犯条例が撤回されたとしても)デモ隊の「五大要求」のうち1つしか満たされておらず、暴力行為を行った警察に対する外部機関による調査などの要求は依然として拒否されており、デモ隊への攻撃が毎日起こっていると指摘する。

そして興味深い指摘が上記の「訂正」ツイートである。 10月の立法会で撤回が宣言されて初めて撤回と言えるので、現時点で「終末」という法的効力が無い表現が使われている以上、条例案が撤回されない可能性もある。

冒頭で述べた通り、10月1日の国慶節を穏やかに迎えたい中国政府としては、今回の「終末」発言でデモを沈静化させ、国慶節が終わったら改めて逃亡犯条例の改正を進める可能性は依然として残されている。

参考文献[1]眾新聞「林鄭:引渡修例「壽終正寢」 民主派:議事規則只有「撤回」和「押後」」2019-07-09

参考文献[2]風傳媒「為何要等8人去世、千人被捕,港府才願撤回修例?林鄭月娥:我只想為香港打破困局,尋找出路」2019-09-05

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