日本を含め、幼児を自動車に乗せる場合にチャイルドシートを利用することを義務付けている国は少なくない。チャイルドシートは通常、座席を一つ埋めてしまうので、普通乗用車であれば運転手と助手席に夫婦で乗っていれば、後部座席に設置できるチャイルドシートは2つとなる。
MITのジョーダン・ニッカーソン客員教授らによる研究では、チャイルドシートの規制によって夫婦が米国で「3人目の子ども」を生む確率を押し下げる効果があるという。
Nickerson, Jordan and Solomon, David H., Car Seats as Contraception (July 31, 2020). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3665046 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3665046
米国では1980年からチャイルドシート義務の法制化が始まっており、州によってその年齢対象は異なるが、それは年代毎に引き上げられてきた。下図は、その年齢規制の加重平均の推移とパーセンタイル順位(年齢)を示している。2000年までは規制が無い州もあり、平均で2~3歳くらいまでの規制が多かったが、2000年以降も規制が伸び続け、現在では8歳近くまでの規制がスタンダードとなっている。
こうしたデータや夫婦の家族構成や人種、学歴、出生率などのデータを元に、パネル分析などが行われた。
結果として、女性にチャイルドシートを必要とする年齢の子どもが2人いる場合、3人目の出産確率が年0.73%下がる。この効果は3人目の出生率にのみ関係し、自動車を利用している世帯や配偶者が存在する場合(つまり助手席が埋まっている可能性が高いケース)に、この効果は大きくなる。3つ目のチャイルドシートを設置することが困難になれば、結果的に3人目の子どもを持つコストが上がるというのが、この論文の発見である。
チャイルドシートの規制は2017年において米国全体で57の自動車事故を防いだと推定されている。しかし一方で、同年の8,000人の出生を削減している。規制が始まった1980年からだと145,000人の出生が減ったということにある。まさに論文のタイトル通り「避妊としてのチャイルドシート」である。
著者は世界的にチャイルドシートの年齢基準が上がっていく傾向にある、なぜこのような政策が採用されているのかという疑問を呈している。この点に対して著者は、単に国はチャイルドシートの年齢基準を厳しくすることによるコストの大きさに気づいていないだけであり、公共選択論におけるトレードオフについての議論が欠如しているのではと意見を述べている。