テレワーク補助はいくらが妥当か

富士通が2022年度末までにオフィスの規模を半減し、テレワーク(在宅勤務)を前提とした働き方にシフトすると発表した。細かい部分は参考記事に譲るが、筆者が気になったのは通勤定期券を廃止する代わりに月額5,000円の在宅勤務手当を支給するという点だ。

参考:ITmedia「「通勤という概念なくす」 富士通がオフィス半減、テレワーク全面導入へ その働き方の全容とは?」2020年7月6日

表題の「テレワーク補助はいくらが妥当か」について言えば3~4万円が妥当であろう。5,000円というのは大多数の出ない会社と比較すれば遥かに良い条件だが、労働者はかかる負担を殆ど賄うことができないだろう。

テレワークが導入されると、確かに社員にとっては単身赴任が少なくなったり、通勤地獄が解放されたりといったメリット(中には単身赴任を喜ぶ人もいれば、会社で人と話さないと苦痛だという人もいるが)がある。富士通も記者会見ではその点を強調している。

しかし、テレワークの導入は(労働生産性の問題はともかく)少なくとも企業にとってコスト削減効果がある。(テレワークにシフトするためのコストはかかるが、ランニングコスト低下効果があることは一般的に知られ、厚生労働省もテレワークのメリットとして挙げている。)

それはオフィスコスト(オフィスの家賃や光熱費など)や通勤手当が代表的であり、テレワーク研究者の東京工業大学環境・社会理工学院の比嘉邦彦教授によれば、東京23区内ではオフィスコストは従業員1人当たり平均7万円というデータがあり、そのコスト削減効果は少なくない。

参考:日刊ゲンダイ「区内1人あたり7万円とも…テレワークが生むコスト削減効果」2020年6月5日

一方で労働者には多くのコストが増えることになる。PCが支給されていればそれを使えるとしても、使えなければ自分で調達する必要はあるし、まともにテレワークを行うにはディスプレイを増やす必要があるかもしれない。元々PCを持っていたとしても、それを仕事で使うのであれば、それだけPCの寿命が短くなるわけだから、そこにもコストがかかる。

在宅勤務を行うのであれば電話代や通信費もかかるし、エアコンや水道などで水道光熱費は高くつくだろう。

実際にどれだけコストがかかるかについては、例えば一般社団法人日本つみたて投資協会代表理事である太田創氏は、厚生労働省のデータより、在宅勤務にかかる費用項目を(情報通信機器費用、通信回線費用、文具・備品・宅配便費用等、水道光熱費)の4つとした上で以下のように述べている。

フル・テレワークなら、新規機材導入設定等費用で少なくとも当初30〜40万円、月当たりのランニングコストは2〜3万円といったところでしょうか。仮に大企業で100人をテレワーク対応させるとすれば、導入コストで3〜4千万円、ランニングコスト月200〜300万円程度。年換算すると、ざっと1億円弱くらいでしょうね。

LIMO「在宅勤務費用、会社からもらっていますか? 付け焼刃的テレワークの問題点」2020年4月30日

2~3万というのは感覚的には合致する金額である。恐らく水道光熱費だけでかなり増えることになる。最近はインターネットが携帯回線だけという人も少なくないので、そうすると固定回線を新たに引き、エアコンを1日多めに8時間以上かけて、自分の家の水道を使うだけで軽く1万円以上かかるだろうからだ。

更に、太田氏はテレワークにおいて重要な費用が抜けていると指摘する。それは「自宅所有の社員がスペースの一部を会社の仕事用に拠出している」と考えれば「家賃」が抜けているという点である。(また、社員が賃貸している住宅で在宅勤務をしているとすれば、それは「又貸し」であると指摘している。)

これは重要な指摘で、確かに個人事業主やフリーランスであれば、自宅で仕事をしているならば、面積按分か時間按分で自宅にかかる家賃の一部を経費として計上するだろう。会社員の場合はそうしたことは認められず、社員がすべてを負担するというのは企業のフリーライドであるという考え方は成立するかもしれない。

実際、スイス連邦栽培書では同様の訴訟が2016年に発生し、2020年4月というコロナ真っ只中において「従業員に在宅勤務の必要性が生じた場合、雇用主は家賃の一部を補助しなければならない」という判決が出ている。

参考:swissinfo.ch「「企業は在宅勤務社員の家賃補助を」裁判所が判断」2020年5月25日

この判決では従業員が在宅勤務のために追加で部屋を借りたりしたかどうかは無関係としており、まさに按分の概念が使われており、家賃補助は月額150フラン(約1.7万円)が相当としている。

これはスイスでの話だが、こうした訴訟が欧米を中心に広がっていけば、いずれ日本でも問題になってくる可能性はある。

日本でのケースを考えてみると、仮に1日8時間勤務残業無しで月20日(完全週休二日制)だったとして、家賃が8万円だとすれば、時間按分すれば、

8万円×(8時間×20日)÷(24時間×30日)=8*160/720≒1.8万円

となる。家賃は地域によって大きく異なろうが、前述の2~3万円というランニングコストに加えれば、4~5万円くらいが本来の妥当な在宅勤務手当ではなかろうか。そうすると、結局は企業にとって在宅勤務で削減できるコストは通勤手当くらいということになる。

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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