生存者バイアスと株価指数・投資信託・職場環境

100年以上の歴史があるダウ平均株価のパフォーマンスを見て、長期投資対象として有望と主張するのは歴史的な結果として説得力がある。しかし、インドのSENSEXのような比較的新しい株価指数であれば、こうした主張にトリックがある場合があるので注意が必要というのが以下の記事だ。

40年で390倍!SENSEXの夢のような上昇に隠された秘密(The Economic Times)

  • 1979年にRs 1 lakh(10万ルピー)をSENSEXに投資していれば、今ではRs 3.9 crore(3,900万ルピー)に上昇しているという言説が溢れている
  • 指数選考委員会が基準年を1979年にしたことが「40年で390倍」言説の根拠となっているが、指数自体の開始は1986年であり、1979年に投資することは不可能
  • 指数対象銘柄を選んだ後に、その過去の株価を基準年にすると生存者バイアスが働いてしまう
  • ミューチュアルファンドのパフォーマンス分析でも同様のバイアスが働いている
  • 1986年以前と以後で年平均成長率を計算すると、1979~1986年は28.71%だが、1986年以降は13.68%しかない
  • 年平均13.68%で計算し直すと、40年間で169倍であり、390倍というのは過大評価

解説

通常、株価指数の対象銘柄には、過去の一定期間において安定して成長してきた優良銘柄を選ぶ。選んだ時点の基準株価から「40年で○○%」というのは問題無い。選考基準が正しいという事の証左になるからだ。

しかし、長期にわたる優良銘柄を選んだ上で、更に期間を遡った上で「当時の株価より○○%」と言うのは反則である。長期的に成長しているという結果が分かった上で、過去の安値を捉えて高パフォーマンスを謳うのは、典型的な生存者バイアスであり、それに惑わされてはいけない。

マイクロソフト株を捕まえて、「いついつに投資していれば1000倍以上になっていた」と主張する人を「優秀な投資家」と評価することはできないと考えれば分かるだろう。

Sensexでそんな面白い主張がされているのには驚きだが、個別では簡単に生存者バイアスを見抜けても、投資信託では同じ罠にはまる人は多くいる。特に、ミューチュアルファンドでは高いパフォーマンスをあげたスキームとマージすることによって、低いパフォーマンスのスキームを殺してしまうという悪習が存在する。

分かりやすく言えば、過去20年間のミューチュアルファンドの平均パフォーマンスを計算すれば、かなりのリターンになる。かなりのリターンになるのは当然で、リターンを出せないファンドは潰れている(要するに死んでいる)わけで、生き残ったファンドだけでリターンを計算するのは生存者バイアスが働いているのだ。

生存者バイアスは何も投資だけの話だけではなく、就職活動など様々な場所で見られる。筆者がよく例に出すのが「社員皆が仲良し」というのを売りにする企業に注意すべきという話だ。

仲良しという文言自体が嘘のケースはさておき、仮にそれが事実であったとしても不自然だと思うのが筆者の感覚だ。学校や会社など様々な組織の人間関係を見れば分かるが、少人数でも全員が仲良しというケースは稀で、派閥ができていたり、孤立している人がいたりするのが自然であろう。

それだけ人間関係が難しい中で、全員が仲良しの職場というのはどういうことか。よほど特定の属性の人だけを巧く採用しているというのでない限り、職場環境に馴染めない人が辞めている可能性がある。逆に言えば、職場環境に馴染めなくても一人で伸び伸びと仕事をするといった事が難しい社風であるかもしれないのだ。これはまさしく生存者バイアスである。

生存者バイアスという言葉自体は有名で概念自体も難しくないが、状況によってはバイアスに騙されやすい人は多いと思われるので、色々なケースで注意したい。

参考文献

The Economic Times, “Rs 1 lakh grows to Rs 3.9 crore in 40 years! Secret behind Sensex’s dream run”, 8 Apr 2019

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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