厳密にはポートフォリオには現金や不動産、コモディティなどを含む場合が多いので、株式と債券の投資比率というのは問題の建て方としておかしいが、単純に株式とそれ以外を考えた時、多くの場合7:3や8:2など株式を多く持つように勧める人が多い。更にはウォーレン・バフェット氏のように株式:短期債券=9:1と大半を株式で運用するように勧める人もいる。
株式を中心に勧める人が多いのは「歴史的なリターンの高さ」と「インフレへの強さ」である。 ダウ平均株価などの場合、歴史的に見れば超長期で保有していれば高値掴みしても回収できるというのが根拠であり、多くの人が推奨している。
一方で、名著『ウォール街のランダム・ウォーカー』のようにライフサイクルに応じたアセット・アロケーションを推奨する人もおり、
- 20代:株式70%(債券15%、不動産10%、現金5%)
- 30~40代:株式65%(債券20%、不動産10%、現金5%)
- 50代:株式55%(債券27.5%、不動産12.5%、現金5%)
- 60代以上:株式40%(債券35%、不動産15%、現金10%)
というように年齢に応じて変えていくという手法を勧める人もいる。日本でも(100-年齢)%を株式比率と似た割合で勧める人はそれなりに多い。これは株式は時に大きなショックを受ける故に高年齢の場合は死ぬまでに回収できないケースがある上、年齢が上がるにつれてハイリスク・ハイリターンよりもローリスク・ローリターンが相応しいという意味で、こちらも理解できる。
そんな中、投資家向けのニュースレターThe Daily Dirtnapの編集者であるジャレード・ディリアン氏は、ブルームバーグにて「あらゆる状況において、全投資家に対して35%を株式へ、65%を債券へ配分すること」を提案した。これは、 バフェット氏のバイブル『証券分析』の著者ベンジャミン・グレアム氏の5:5よりも株式比率が少ない。
この比率についてディリアン氏は以下のように延べている。
- 最初に決めたポートフォリオを逸脱し、欲張って買い足した結果、高値で買って安値で売る羽目になる人や途中でお金を引き出してパフォーマンスが悪くなってしまう人がいる
- 結果「ポートフォリオの維持」という本来は自分でできるべき行動のコーチングをする家計向けアドバイザーが生まれる始末
- 35:65は高いシャープレシオを示すリスクの最小化を重視したポートフォリオなので、全ての年齢に適している
- リスクが少ないポートフォリオの方がset-it-and-forget(買ったら忘れろ)を維持しやすく、合理的ではない行動を誘発しにくいし、誰かにアドバイスをもらう必要もなく、結果的にリターンが高い
理由を聞けば納得である。ETFを買って放置するという運用は、いかなる場合も動じない鋼の意志が必要である。そして、知識の無い人が余計な事をしないようにお金を払って行動を抑制するという事をするくらいなら、最初からあまり欲張らないポートフォリオを組んだ方が結果的に良いという話である。
これは米国の低い貯蓄率(6%)に対する警鐘も込めているようで、多くの米国人は欲張りすぎて失敗するので、堅実に貯蓄せよというメッセージも発している。
勿論、インデックス運用を徹底できるに越した事は無いが、どうしてもマーケットが気になってしまう人には有効かもしれない。
参考文献
Bloomberg, “This Standard Piece of Investing Advice Is Too Risky”
バートン・マルキール(2016)『ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉 ―株式投資の不滅の真理』日本経済新聞出版社