「うちの会社に人工知能(AI)を導入したい」と思った時に読む記事

仕事柄、人工知能(AI)を導入したいという企業や個人の話をよく聞くが、流行りに乗っかろうとしただけで具体的なプランが何も無いケースが多い。本稿は、企業で決定権を持つ人が思いつきで人工知能導入を指示しないようにするための指針である。

まず人工知能とは何かだが、日本大百科全書には

「計算(computation)」という概念と「コンピュータ(computer)」という道具を用いて「知能」を研究する計算機科学(computer science)の一分野

日本大百科全書(ニッポニカ)

とあるが、これはWikipediaでも引用されているが、良い定義とは思わない。「知能」を含むトートロジー的であるし、知能自体がよく分かっていないからだ。

その後に「誤解を恐れず平易にいいかえるならば」と但書きを置いた上で、

これまで人間にしかできなかった知的な行為(認識、推論、言語運用、創造など)を、どのような手順(アルゴリズム)とどのようなデータ(事前情報や知識)を準備すれば、それを機械的に実行できるか」を研究する分野

同上

と続く。筆者としてはこちらの方が適切な定義だと思われる。知能はよく分からなくても「知的な行為」の方が分かりやすいし、必要なアルゴリズムとデータが明確であるからだ。この定義から何が言いたいかと言うと、人工知能導入の前に次の3つを明確化するべきということだ。

  • 目的(=知的な行為):人工知能を使って何をやりたいのか
  • データ:目的を実現するために必要な機械学習を行うためのデータ
  • 方法(アルゴリズム):本当に人工知能でなければならないのか

目的

「流行りの人工知能を導入したい」という思いつきが先立ち、肝心の目的が分からないケースが非常に多い。何らかの仕事を自動化したいだけなのか、将来の売上を予測したいのか、従業員が辞めてしまう理由を見つけたいのか、商品ごとの顧客の属性を分類したいのかなど、目的が明確でなければ学習しようがない。

当たり前のようでいて、これが意外に多いのが現実である。テレビで見たからと言ってビットコインに大金をつぎ込むようなことと同じレベルなので、冷静になった方が良い。

データ

人工知能と呼ばれるものは、「機械学習システム」と呼ばれることも多いが、何らかのアルゴリズムに基づいた機械学習を経て目的が達成される。機械学習を行うにはデータが必要である。売上データなら、日時や商品名、買った人の属性、その時の気温など色々なものが考えられるだろう。

売上ならまだ良い。では従業員の辞職理由を探す場合はどうだろうか。どういう社員が辞めて、どういう社員が辞めないのか、色々なデータを集めなければならない。既存のデータ(性別、年齢、給与、勤務時間など)だけで足りるだろうか。

足りないなら他に何が必要だろうか。例えば、各従業員からヒアリング調査をする必要があるのだろうか。実際に辞めてしまった人からのデータは取りづらいので、今後時間を掛けてデータを集める必要があるかもしれない。

勿論、どんなデータが必要かは専門的知識が無いとある程度までしか分からないと思われるので、具体的な話は要件定義で詰めていくことになるだろう。しかし、全くデータが無いでは話にならない。「どのようなデータが存在するか」くらいは把握できていないと、想定以上のコストがかかることになるかもしれない。

方法

そして方法である。わざわざコストのかかる機械学習システムを組む必要があるだろうか。従来の統計解析で対応できないだろうか。例えば売上予測なら市販のツールで対応できるかもしれない。

なお、統計と人工知能の違いだが、厳密な境界の確定は難しいが、概ね前者は「説明」を重視しているのに対し、後者は「予測」を重視する。勿論、機械学習システムにも統計の知識は多く使われるし、統計分析をもって予測を行うこともあるのだが、大雑把な違いはこのようなものだ。

以上、人工知能の定義に即して、人工知能を導入したくなった時に一歩立ち止まって考える指針について整理した。

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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