健康や環境、食料供給問題などへの意識の高まりから植物性由来肉が欧米を中心に流行している。過剰な肉の摂取が健康を害するのは医学的に実証されているが、ビーガン(ヴィーガン)のような極端な菜食主義が身体に良いかどうかは不明である。
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ここで紹介する研究は、国際的にも権威が高い英国の医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)で公開されたばかりの論文である。
本研究は、1993~2001年にかけて英国で募集した48,188人の被験者を、
- 肉食主義者(Meat eaters):n=24,428
- 魚食主義者(Fish eaters):n=7,506
- 菜食主義者(Vegetarians):n=16,254
の3グループに分け、最大18年の追跡調査を行ったものである。
調査対象者は虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症といったいわゆる心臓病)と脳卒中(虚血性・出血性)の病歴が無く、その後の発症が追跡されている。
様々な質問項目により学歴や喫煙・飲酒状況、運動など影響を与えそうな変数でコントロールされている。また、2010年に同一の設問を行うことで回答の整合性や食生活の変化などについても追跡している。(n=28,364)
ここで肉食主義者は、多くの人と同じ食習慣であり、肉食を制限することはしない。魚食主義者はペセタリアンとも呼ばれる人で、牛・豚・鶏などの畜産肉を食べないが魚介類は食べるという人である。
菜食主義者は、ビーガンから牛乳・鶏卵は食べるといった人まで幅広くベジタリアンと呼ばれる人が分類される。ビーガンが独立していないのはサンプル数が少ないためである。
心臓病(虚血性心疾患)と脳卒中の発症リスクについては、今後10年間の人口1,000人当たりの予測発生数(ハザード比)で出されている。
下図は元論文の図を再構成したものである。原著ではリスク差が書かれているが、分かりやすいようにリスクの相対比較に直して掲載している。
これによると、肉食主義者に比べて菜食主義者は、心臓病の発症リスクは21.6%低いのに対し、脳卒中の発症リスクは18.8%高いという結果である。
この結果に対して、心臓病に関しては自己申告された血圧や血中コレステロール、BMIなどで調整すると殆どの関連性が低くなり、菜食主義者に関してはわずかに有意性が残るという結果となっている。
これは、菜食主義自体が心臓病リスクを減らすというよりかは、動物性食品の摂取が少ないことによってコレステロール値などが低く抑えられ、心疾患の発症リスクが下がったのではないかと見られている。
一方で脳卒中については、日本のいくつかの研究と同様の結論と整合的であるが、本研究はあくまでも追跡調査による観察研究であり、因果関係の特定にまでは至らない。
それでもここまでの大規模な追跡調査は例が少なく、菜食主義と脳卒中に何らかの関係を示唆する有意義な研究であると言える。