今回も引き続き出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫 より、読む過程で投資に役立つヒントとなると考えたものを紹介していく。今回は第三部4章「イスラムの大翻訳運動とヴァイキングの活躍」である。
この章で筆者が注目したのは、西ヨーロッパでフランク王国が衰退してヴァイキングが活動していった時期である。海賊としてのイメージが強いが、基本的には「貿易商」であり、必要に迫られて武力を持ったという過程から得られるものが多い。
ヴァイキングは海賊ではなく貿易商
9世紀終わり頃になると地球が温暖化していき、ヨーロッパ北部のスカンディナヴィア半島(今のスウェーデン、ノルウェー、デンマーク)も南部では温暖化し、穀物の収穫量が上がっていった。しかし、半島北部では依然として収穫量が少なく穀物が不足しやすいという事情があった。
一方で今のノルウェーを考えても分かるが魚介類は多く獲れるので、南方で魚と穀物を交換しようとする。
ところが、金髪で青い眼をした粗末な身なりの大男たちを、ヨーロッパ沿岸やイングランドの人々は、必ずしも好意的には迎えませんでした。魚を分捕られて追い返されたり、魚と交換に受け取った麦の袋のなかの半分が小石だったりすることもありました。そこでヴァイキングたちも考えます。真っ当な交易を行なうためには武力が必要だと。そして相手の対応次第では、武器を使用しました。
北方の貧しい人々は、武力の裏付けがないと交易ができなかったのです。こういう経緯があって、ヴァイキングは海賊などと呼ばれるようになりました。実際には彼らの収益の九割以上は交易によるもので、略奪は例外だったのですが。
出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫(pp. 233-234)
海賊のイメージが強いヴァイキングであるが、今はヴァイキングは略奪だけでなく交易も漁業も農業も多様な事業を行なう集団であったというのが定説となっている。そして収益の大半が交易によるものだと分かっており、ヴァイキングはスカンディナヴィア半島などに住んでいた貿易商というのが正しい認識だ。
舐められないための「力」
あくまでもヴァイキングにとって武力は「舐められないように持つ」ものであった。舐められない或いは足元を見られないようにするには力を持つ必要がある。これは貿易でも外交でも労使交渉でも同じである。持つ力は必ずしも武力であるとは限らないが、これは外交や貿易などを俯瞰する上で、相手がどのように行動しているかを見るのは非常に重要である。
例えば、(中国や韓国を経由して入ってくる)北朝鮮産の松茸を輸入する際、必ず金属探知機によるチェックが必要である。これは好きあらば松茸に釘を刺して出荷してくるからである。松茸自身に差すことで重量をごまかせるだけでなく、折れた松茸を繋げるのにも使えるからだ。
だから10年くらい前までは市販の松茸に釘が仕込まれているケースは少なくなかった。ヴァイキングの時代に麦に小石が混ざっているのと何も変わらない。(最近はあまり聞かないので今は相当減っているはずである。)
最近なら中国のプラスチック米や紙米だろうか。小石や釘どころの話ではない。誤食するリスクが高く非常に問題だ。これを倫理観や教育のせいと片付ける人は多いが、この見方は間違っていると考える。単純に「舐められている」だけである。
確かに、高い倫理観があれば「相手が平和ボケしていても倫理的な行動を取ってくれる」かもしれない。しかし、ビジネスや外交の場では相手が平和ボケしていれば、そこを付いて来るのは当たり前である。
舐められないように対策しなければ「交換」は失敗する。釘入り松茸が減ったのは金属探知機による検査を徹底するようになったからだ。恐らく今は釘で誤魔化そうとする行動すら減っているはずだろう。検査を徹底していれば輸出できるものがなくなるので、釘を刺すメリットが無い。でも、決して北朝鮮で倫理教育が進んだから釘入り松茸が減るわけではない。舐められないようになったからだ。