投資に役立つ『全世界史』(4):中華思想とAIバブル

今回も引き続き出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫 より、読む過程で投資に役立つヒントとなると考えたものを紹介していく。今回は第二部第2章「知の爆発の時代」からヒントを得る。 ここでの「知の爆発」は、紀元前500年頃から、中国、ギリシャ、インドでほぼ同時期に多くの哲学者や思想家、芸術家などが生まれたことを指している。

前回:投資に役立つ『全世界史』(3):強制移住

文化の発達は経済の余裕から生まれる

 知の爆発につながる文化的予兆は、東西で見られたのですが、それを実際に爆発させたのは鉄器の普及です。BC五〇〇年前後からユーラシア大陸全体にわたって、鉄器が普及し始めます。さらにこの時代は地球の温暖化が進み、人間の活動が東でも西でも活発になりました。鉄器の普及と地球の温暖化、この二つが知の爆発を引き起こしたのです。

 鉄器で耕すと当時の主たる産業であった農業の生産性は向上し、国が豊かになります。社会に余裕が生まれることで、芸術家や知識人など、働かない人が食べられるようになります。このような時代背景があって、初めて知識人が生まれてきたのです。

出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫(pp. 99-100)

ここでの「文化的予兆」は、

  • ギリシャ:フェニキアに対抗するためのギリシャ・ルネサンス
  • インド:因果応報思想と輪廻思想の融合によるウパニシャッドの誕生
  • 中国:西周滅亡に伴う漢字拡大と中華思想の誕生

である。こうした予兆があって、ギリシャならプラトンやソクラテス、インドなら仏教やジャイナ教、中国なら諸子百家の誕生につながっていく。しかし、生産性の向上により国が豊かになって初めて、こうした文化が花開くということを著者は強調している。

高校教育で日本史を学習する限りでは、社会が安定している時期よりも激動の時代の方が文化が発達するように描かれ、そのようなイメージを持っている人が多いだろう。しかし、文化の担い手が増え、質的にも量的にも高まっていくには、やはり経済が安定していることが重要である。歴史の教科書で退廃期の文化の方が優れているように見えるのは、単に生存者バイアスであると思われる。

中華思想とAIバブル

この「文化的予兆」の一つとして挙げられている中華思想誕生の契機も物事を考えるヒントとなる。

周王朝は商から受け継いだ青銅器文化を引き継ぎ、そこには漢字で金文を彫り、これは地方の諸侯に渡すことで威信財としての役割を果たした。周は青銅器を作る技術や金文を掘る技術を抱え込んでいたが、周が滅んでから職人は地方の君侯に仕えるようになる。その時に地方の君侯は金文職人に漢字の読み方を教えてもらい、そこに書かれた過去の歴史を学ぶことになる。

 中華思想とは、結局、漢字の魔力だったのです。漢字が広まって初めて周の歴史を呼んだ人が、中華は立派であると勝手に思ってしまった。漢字に書かれていたことがひとつの権威になっていたのです。

 やがてこの中華思想は東アジアにも拡がっていきました。まず漢字が伝わってくる。そこへ漢字が読める人がやってきて読んでくれた。するとやっぱり驚いてしまう。中国という国は偉いと思ってしまったのです。

同上(pp. 98-99)

よく分からないもの(漢字)がやってきて、そこに凄いこと(歴史)が書かれていることが分かった。当時は長い歴史を文字として残しているだけで貴重であり、そこには大きな文化的ギャップがあったわけだ。

しかし、現代人を見ても分かる通り、ちゃんと教育を受ければ誰でも漢字の読み書きができるようになるし、歴史も勉強して理解し記憶できる。今の時代で考えれば、どちらもそれほど凄いものではないかもしれない。

同じ事が今のAIで言える。何か中身のよく分からないAIが出てきて、それを扱う人がいる。何らかの仕事をやってくれる。それを凄いと思うわけだ。そうすると猫も杓子も有難がってAIとAIと言うわけである。

しかし、少なくともバブルとなっているディープラーニングは発見した人は凄いが、技術的にはシンプルである。高校レベルの数学リテラシーがあれば、ちゃんと勉強すれば基本的なアルゴリズムを理解することはそう難しくはない。また、便利なライブラリもあるので利用するハードルも低い。

こう考えれば、今のAIは中華思想における漢字や歴史と構図を同一である。嘗てのITバブルもそうだったかもしれない。よく分からないものを凄いと思って群がってしまうのは古今東西同じと言えるかもしれない。

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この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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