今回も引き続き出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫 より、読む過程で投資に役立つヒントとなると考えたものを紹介していく。今回は「人の移動の仕方」と「アルファベットの成立」を取り上げる。
第一部第2章:チャリオットによる軍事革命
章の主題としては、分裂状態となったエジプト中王国において、セム系のヒクソス(「異国の支配者」の意)がチャリオット(馬で引く二輪の戦車)を用いて制圧したことや、遊牧民であるヒッタイト人がアナトリア半島で出土する鉄を用いた武器でバビロニア王国を滅ぼしたことなど、軍事革命についてである。
しかし、筆者の観点では「人の移動の仕方」がポイントである。ヒッタイト人は温暖な地域を求めて南西部に移動(これも環境変化に伴う人類の移動である)したのだが、
けれども暮らしやすそうなメソポタミアやシリア方面は、当時の先進地域で、強力な民族がたくさん居住しています。侵入しても勝てそうにないので、現在のトルコ共和国があるアナトリア半島へ迂回しました。
出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫(p. 49)
と強い民族の居住地域を避けたことが指摘されている。更に、
また同じインド・ヨーロッパ語族の一部が、エジプトをめざしましたが、ここも強力なのであきらめて、ギリシャに向かいます。そして、ギリシャのペロポネソス半島にミケーネ文明を興しました。
同上(p. 49)
と、こちらもエジプトを避けて移動している。
これは現代における難民の移動や中国における一帯一路などを見る上で重要である。基本的に良い環境や富を求めて移動や覇権争い、領土拡張を行うという観点で見れば、難民にとってはより良い環境を目指すだけでなく、難民にとって都合が良い場所(政治システム的に受け入れられやすい場所)を目指すのである。また、中国にとっても「狙いやすい国」を狙うのである。
第一部第3章:黄河文明の登場とBC1200年のカタストロフ
いわゆる「海の民」により肥沃な三日月地帯で大国が一気に衰え、カタストロフと呼ばれる権力の空白期間が生まれ、そこにフェニキア人やアラム人などが登場する時期が主題である。
筆者的に面白いのはフェニキア人が使ったアルファベットである。
最古の文字はメソポタミアで生まれた。このルーツとして求められるのが、シュメール人の商人が使っていたトークンである。これは、粘土ボール(トークン)に記号をつけることで「誰々の売掛金」を識別したものが元で、硬貨のルーツであると共に文字のルーツであるとも言われる。それが楔形文字として発達していき、エジプトにも伝えられるが、エジプトではメソポタミアへの対抗意識から独自のヒエログリフを使っていた。(第1章)
フェニキア人が住むシナイ半島はメソポタミアとエジプトの間にあり、双方の交易を行っていたが、楔形文字とヒエログリフを両方扱うのは不便だったことからアルファベットを生み出したというのが一説である。
言語というものを「商品」とすれば、そこには地域によって差があり、シェアも異なる。歴史を見ても、フランク・リンガ(共通語)という観点で、特定の言語を使おうとする動きは多くの場所で見られる。一方で、既存のものでは駄目だということで、新たに作られることもある。
人や人、物や物などを結びつける上で不便なものには多くのサービス(商社なり人材派遣会社なりもっと言えば何らかのプラットフォームと言っても良い)が生まれる。注目を集める分野だと沢山の商品やサービスが生まれ、乱立することになるが、最終的に残るものは少ない。
アルファベットというものは最終的には大成功した製品だが、そうでないものも多くある。これは巨大な市場であることが生み出すバブルにもつながるヒントとして筆者は受け止めた。