ライフネット生命創業者である著者出口治明氏は世界史の専門ではないので、非主流的な説を採用していることはあるが、上下巻960ページに渡る本作は様々な文献を元に世界史を横断的に整理した大作である。いわゆる高校の世界史のような年号中心・各国史中心のぶつ切りかつ縦向きの整理ではなく、横の繋がりを意識した整理は、読み物としても面白い。
当サイトは投資をテーマにしているが故に、ここからの記事は、本の要約や批判的検討が主たる内容ではい。寧ろ、人類の長い歴史を俯瞰することで、長期的に通じる本質的な需要や繰り返す人間の行動など、投資のヒントになることを読み取るのが目的だ。本シリーズでは「各章で最低1個以上は投資に役立つヒントを読み取る」というテーマで執筆していく。
節タイトルは『全世界史:上巻 (新潮文庫)』および『全世界史:下巻 (新潮文庫)』の章タイトルと対応しているので、内容が気になる人は本書を手に取ってみてほしい。なお、同じ著書の『「全世界史」講義(上下巻)』という本もあるが、内容は同じである。
前史:人類が文字を発明するまで
アフリカの地を人が出ていき、世界中に拡がっていった理由として有力なのは、「大型動物(メガファウナ)」を追っていったというものである。狩猟採集時代においてはメガファウナを仕留められるかが生存のポイントだが、環境変化や人間による狩猟により頭数が減り、移動していったというものである。その根拠は、ある地域において出土するメガファウナの骨が激減する時期と、人骨が出土し始める時期が一致していることである。
環境変化や食糧状況によって人が移動するというのは古今東西共通しているものである。政治的な理由で移動することもあるが、今後も温暖化による耕作不能地域の増加や海面上昇などで人が移動する可能性は重要である。例えば北欧などでは温暖化により寧ろ耕作に適する環境に近づいていくことなどが予想されており、将来的には人が流入する可能性があるし、現に今から土地を買い集めている人もいる。
第一部第1章:文字の誕生と最初の文明
四大文明がいずれも川の近くで起こった事は常識だが、最初に文明が起こったのがシュメール人によるメソポタミア文明であるにも関わらず、先に大国が生まれたのはエジプト文明だったのは何故だろうか。本書ではそれが「地理的な条件によるもの」とした上で、以下のように述べられる。
大国が成立するためには、権力の後ろ盾となる大量の余剰生産物を集めなくてはいけません。そのためには道が必要です。エジプトの場合、それはナイル川でした。ナイル川は、まっすぐで高低差が少なく、流れもおだやかなので大量の物資を運べます。さらに、川岸に山や丘陵地帯がありませんから、要所要所に警備兵を置いておけば守りやすい。こうして「点」の都市国家が、水路、陸路という線によって結ばれることで、初めて「面(大国)」を支配できるのです。
『全世界史:上巻』(pp. 34-35)
一方でシュメール人の文化については以下のように述べられる。
一方で、ティグリス川とユーフラテス川は緑地帯を走り、流れも早く、周囲には丘や森があります。ですから盗賊の隠れる場所も多く、さらに上流にある山地に住む住民が豊かな川沿いの地を襲うこともしばしばでした。加えてシュメールの都市国家は、ジッグラト(塔)に独自の守護神を祀り、互いに覇権争いをしていました。こうした条件が重なって、誰も大量の余剰生産物を集めることができず、メソポタミアにはなかなか統一国家が現れませんでした。
『全世界史:上巻』(p. 35)
メソポタミアとエジプトを見れば、どちらも川沿いであったが、地理的な条件により富の蓄積速度が異なったというところが重要である。現代においては盗賊が富の蓄積を阻害することは少ないが、産業や貿易に適した土地が狭い地域においては、過度に地価が高くなりやすいので、結果的に投資パフォーマンスを引き下げる可能性はあるかもしれない。
また、現代的な視点で見れば、開発において平坦な土地であることが非常に重要である以上に、貿易を考えれば、海上貿易の拠点など他国に対する位置関係も重要である。例えば筆者が注目するベトナムのダナンなどは歴史的に海上貿易の拠点として重要であった。