イスラム金融にありがちな誤解(2)

前回に引き続き、今度は日本におけるイスラム金融研究の第一人者である吉田悦章氏(京都大学大学院特任教授)が一般向けに書いた『はじめてのイスラム金融』(金融財政事情研究会)第4講で「よくある誤解」をまとめている。必ずしも誤解ばかりではなく「抱きやすいイメージ」であるが、私の意見も交えながら紹介しよう。

前回:イスラム金融にありがちな誤解(1)

イメージ1:テロリスト向けの金融

吉田氏は、イスラム銀行取引も反マネロン規制対象でありコンベンショナル銀行と同等のチェックがかけられると否定する。(コンベンショナル銀行とは、文字通り「従来型銀行」であり、いわゆる一般的な銀行とイスラム銀行を対比させる時に使う用語である。)

しかし、テロリスト「向け」というのは明確であるが、テロリストに使われやすいのもまた事実であると指摘しておこう。商品を介した取引を多様するイスラム金融ではマネーロンダリング手法として使われやすい。今後も安定して成長するには、規制や追跡のためのシステムのさらなる整備が求められる。

イスラム金融におけるシステムなどについてはまだまだこれからという段階である。

関連記事:金融機関目線から見たイスラム金融の成長

イメージ2:コンベンショナル金融のレプリカ

これについて吉田氏は「ある意味では正しい」と指摘する。金融商品などコンベンショナル金融との類似性は非常に高い一方で、より教義理念の側面を重視すべきという論調もあり、独自の発展が求められる。

実際、コンベンショナル金融をイスラム金融の枠組みで開発した金融商品が多いのが事実である。但し、独自の発展の必要性については国によって異なるだろう。

1人当たり名目GDPが10,000ドルを超えるようなマレーシアなどでは金融リテラシーも高くなっており、宗教的な要因だけでなく投資対象としての魅力や独自性も重要になってくるだろう。一方で名目GDPが4,000ドルに満たないインドネシアなどでは「銀行口座の必要性」など基本的な金融リテラシーの普及もまだまだである。

これからの成長余力で言えば後者の方が大きいが、この時点でイスラム金融の独自性を売りにしても効果は小さいかもしれない。

イメージ3:慈善的な金融

これは前回記事でも入っていた項目だ。吉田氏は「同意する面としない面とがある」と述べる。少なくともイスラム金融従事者は利益を獲得するためにやっており、寧ろイスラムの理念では「労働や資本の投入による利潤の獲得は奨励されるもの」と指摘する。一方で教義上は「金融を通じた経済付加価値の拡大や貧困削減」を目指しているという意味で間違いではないとも言う。

イスラムの理念についてだが、イスラム教における「利子(リバ)の禁止」という概念の誕生は、一般に当時の経済事情が背景だと言われる。

砂漠地帯で交易が行われていたわけだが、こうした地域では貨幣の流動性が極めて低く、暴利が横行していたというのがある。特に貧者が暴利によって債務が膨れ上がっていったことをムハンマドは問題視し、「予め決まった利益の確保」や「不確実性の高い投機的な事業」が禁止されるにいたったと考えられている。

前者は「利子の禁止」につながり、後者は「ギャンブルなどの禁止」につながっている。しかし、一般的な事業投資は推奨されており、イスラム金融の債券などでは「出資者による間接的な共同事業」という形が取られることが多い。

イメージ4:オイルマネーのみによって支えられている

吉田氏も指摘するように、2000年代半ばに原油価格が一時140ドル台に達するなど、中東諸国の投資需要がイスラム金融の成長を後押ししたことは間違いない。一方で、1970年代からのイスラム復興運動やイスラム教徒の増加、イスラム教国の経済成長など成長を後押しする要因は多いと指摘する。これについては完全に同意である。

イメージ5:準拠法はシャリアのみである

吉田氏は、シャリア(シャーリア)はイスラム法と呼ばれるものの、取引の準拠法になることはなく、世俗法(いわゆる世間一般で言う法律。教法に対する言葉。)が準拠法であると指摘する。ただし凡例などにおいて、非イスラム教国でも現地の慣習としてシャリアが考慮される場合があると指摘する。

これも概ね同意であるが、イスラム教国ではイスラム法と世俗法のバランスや優先が問題になるケースが多く注意が必要である。取引における準拠法はたしかに世俗法であるが、イスラム金融商品がシャーリア適格であるかなどについては、イスラム法の専門家に判断を仰ぐことが多い。

イスラム金融機関においては専門のイスラム法学者を雇っていることも多く、マレーシアは以前から、シンガポールなどでも最近はイスラム法教育は積極的である。

関連記事:イスラム教育に力を入れるシンガポールの狙い

また、マレーシアにおけるイスラム金融についての教義との関連などについては以下の書籍が詳しい。

シャーリザ・オスマンら(2017)『イスラム金融の基礎:入門編』日本マレーシア協会

イメージ6:イスラム金融は世界を支配しようとしている

イスラム共同体(ウンマ)やジハード(聖戦)といった言葉が誤解されやすいが、後者も元々の概念は「信仰のための努力」のことを指し、戦争の要素が含まれるものではなく、ましてや世界征服を目指しているわけではないと指摘される。

これについては同意であり、イスラム金融がコンベンショナル金融を置き換えるものではなく、宗教の違いに伴って混在するものであると考えられる。

誤解を恐れずに言えば、歴史的にはキリスト教においては金融を正当化するために宗教を変えていったのに対し、イスラム教では金融を正当化するために金融を変えていった。人口増加に伴って勝手にイスラム金融のシェアは高まると思うが、既存の金融を塗り替えるような事態にはならないだろう。

参考文献

吉田悦章(2016)『はじめてのイスラム金融』金融財政事情研究会

前回:イスラム金融にありがちな誤解(1)

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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