イスラム教育に力を入れるシンガポールの狙い

先日のシンガポールのリー・シェンロン首相による政策方針演説では、退職年齢・再雇用年齢引き上げの方針は海外メディアを中心に大きく取り上げられ、当サイトでもその概要や狙いについて解説した。

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もう一つ筆者が注目しているのは、表題のイスラム教育の強化である。

シンガポールがイスラム大学のモデルとしての新しい教育学を模索(Bernama)

  • マレー系ムスリムコミュニティで重要な役割を果たすシンガポールイスラム教評議会(MUIS)が2020年に「現代社会におけるイスラム教学修士」(PCICS)を開始
  • 海外でイスラム研究を修めた学生が、シンガポールの文脈で応用するためのカリキュラム
  • イスラム教学の新しいアプローチを探求し、新しい世代のアサティザを訓練するイスラム大学のモデルにする予定
  • アサティザ認定スキーム(ARS)に基づくイスラム教教師の数が2017年の3,000人から2019年には4,000人に増加

解説

ここでは修士と言ってもPostgraduate Certificateであり、学位としては修士と同格であるが修士論文を省いた教育カリキュラムを指す。これは研究よりかは専門的知識が必要な職業に役立たせるのが主な目的で、英国を中心に多く開講されている。

また、アサティザはイスラム教の教師の意である。

シンガポールは、歴史的な経緯(マレー系と中華系の対立)によってマレーシアから分離独立しているので、民族構成としては中華系が74.3%と大半だが、経済的な交流は密接で、マレー系(13.3%)、インド系(9.1%)など多民族国家である。(Singapore Government Strategy Group)

こうした理由からイスラム教徒は14.0%(ほぼマレー系)と少なくない割合で存在する。しかし、政策方針演説で取り上げるほど強調するのは、「イスラム金融の推進」という狙いがあるからだと筆者は考えている。

シンガポールは東南アジアの金融センターとしての地位を築いているが、ことイスラム金融に関してはマレーシアの後塵を拝している。

これはマレーシアがマレー系中心の国家であり、早くからイスラム金融の推進に力を入れてきたからである。

マレーシアが行ってきたのは、イスラム金融スキームの開発や法整備だけでなく、イスラム教専門教育機関の設立など、教育者や研究者の養成にも力を入れてきた。

イスラム金融スキームがイスラム法に適合しているか否か(シャーリア適格か否か)を判断するのはイスラム教の専門家であり、イスラム金融を扱う政府機関だけでなく、各イスラム金融機関にも専門家が必要であるからだ。

その意味で、Postgraduate Certificateを与える教育機関は、実務者のニーズにも合っているのだ。また、過去に英国の植民地だったという理由も英国的なモデルを参考にしている可能性がある。

参考文献

Singapore Government Strategy Group, “Population In Brief”

Bernama, “PM Lee : Singapore exploring new pedagogy as model for Islamic college”, 18 Aug 2019

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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