シンガポールの退職年齢・再雇用年齢引き上げの概要と狙い

シンガポールのリー・シェンロン首相は、8月18日の独立記念日に合わせた政策方針演説で、退職年齢と再雇用年齢の引き上げ方針を示した。本稿では、引き上げの概要に加え、背景とその狙いについて解説する。

段階的な退職年齢と再雇用年齢の引き上げ

退職年齢と再雇用年齢の引き上げは段階的に行われる。

まず現在62歳である退職年齢は、2022年に63歳に、2030年までに65歳に引き上げられる。再雇用年齢については、現在の67歳から、2022年に68歳、2030年までに79歳に引き上げられる予定だ。

但し、1960年7月1日以後生まれの人は2022年時点で63歳になって引き上げの恩恵を大きく受ける一方で、1955年7月1以後生まれの人が2022年時点で68歳になって再雇用年齢引き上げの恩恵を全く受けられなくなるので、後者の人に年齢適用の調整が行われる。

また、民間企業に引き上げ適用を浸透させるために、率先して公共部門での適用を行い、公務員に関しては2022年ではなく2021年に引き上げる方針である。

世界一の平均寿命と急速な高齢化

退職・再雇用年齢の引き上げの背景はまず第一に高齢化がある。2017年の調査でシンガポールの平均寿命は84.8歳と世界一になったことがある。

シンガポールは急速に高齢化が進んでいる、世界銀行によると、高齢化率(65歳以上人口の割合)は2018年時点で、シンガポールは13.58%だが、2030年には24%となって超高齢化社会(高齢化率が20%以上)になると予測されている。

現時点でも600万人足らずの人口に、100歳以上が1,300人以上の存在し、医療費など同様の問題を抱えている。

年金問題と選挙

シンガポールではCPF(Central Provident Fund:中央積立基金)という年金制度が採用されている。これは日本の賦課方式と違って積立方式であるが、現時点ではCPFに占める労働者の割合は、

  • 55歳未満労働者:37%
  • 55-60歳労働者:26%
  • 60-65歳労働者:16.5%
  • 65歳以上労働者:12.5%

である。見て分かる通りCPF寄与率は60歳以上になると急速に下落しているが、これを10年ほどかけて55歳以上労働者のCPF寄与率を引き上げる方針である。

これは、前述の高齢化・高寿命化に応じて、高齢でも働きたい人が増えることに対応し、高齢者が経済的に自立しやすい社会を作ることが目的である。

これも退職年齢や再雇用年齢の引き上げと同様に2021年に調整が行われる。

一連の改革は、2018年に労働省が設立した高齢労働者に関する第三者ワークグループの提言と合意に基づく。

こうした改革の最大の狙いは、何よりも2021年に控えた選挙である。

リー・シェンロン首相は、選挙に備えるとともに、今後数年で新しい指導者に権力を委譲する方針を示しており、そのための基盤作りというのが大方の見方である。

参考文献

Bernama, “Singapore to raise retirement age in public service to 65 in 2021”, 18 Aug 2019

Channel NewsAsia, “NDR 2019: New retirement, re-employment ages of 65 and 70 by 2030; higher CPF contributions for older workers”, 18 Aug 2019

Bloomberg, “Singapore to Raise Retirement Age With Power Transition Approaching”, 18 Aug 2019

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