ロンドンで有名な無料の経済新聞City AMのオンライン版で”Islamic finance 101: Debunking the common myths”(イスラム金融101: よくある迷信を暴く)というコラムが掲載されていた。
2016年時点で2.2兆ドルの資産規模、2022年までに3.8兆ドルまで成長すると考えられているイスラム金融市場だが、一般的には多くの誤解があり、それがピックアップされて訂正されているという内容だ。
日本の金融機関も少しずつ進出してきており、将来的にメディアでの露出も増えると考えられるので、ここでよくある誤解をまとめておくのは有益だと考えた。
誤解1:イスラム教徒だけのための金融商品である
元はイスラム教のシャーリアを満たすように(シャーリア適格という)設計されて金融商品を扱うのがイスラム金融であるが、イスラム教徒だけが使えるというわけではない。
アルコールや豚肉だけでなく、ギャンブルや武器、ポルノ、タバコなどはシャーリア基準を満たさないので、イスラム金融には入らない。またイスラム金融の性質上、共同出資というような形で債権を取引することも多く、商品も多様であり、マレーシアなどでは中華系によるイスラム金融利用も増えてきている。
シャーリア基準を満たすというのは、多くのケースで最近流行のESG投資とも共通する部分が多く、今後ますます非イスラム教徒による出資は増えると考えられる。
誤解2:慈善事業に焦点を合わせている
「利子(リバ)の禁止」という言葉だけが独り歩きし、利益を出せないと考えられていることは多い。しかし、イスラム金融では多くの場合は商品の売買などを介して実質的に利子を取るというスキームが多く、利益を出せないわけではない。
だから慈善事業だとか非営利目的というのは全く実態と乖離した誤解である。
もっとも、どうしても間接的な出資などで利子による利益が金融商品に入ってしまう場合などについては、国によって何%許容されるかといった規定があったり、あるいはポートフォリオの「浄化」のために慈善団体に寄付するといった形が取られることはある。
こうしたイスラム金融の仕組みや各国の状況などについては、やや古いは体系的にまとめられた良書「イスラム金融:仕組みと動向(イスラム金融検討会)」がある。
誤解3:利益を犠牲にしなければならない
基本的には商品取引を介することでシャーリア基準を満たすことを目指すイスラム金融においては、取引コストが高くなりやすく、その意味ではコスト体質になりやすいという問題はある。
一方で、ギャンブルやデリバティブなど「投機的」とみなされるものもシャーリアを満たさないので、こうした企業への投資は徹底的に排除される。
その意味で、世界金融危機の時などでは被害が少なかったという報告は非常に多い。逆に正常時はイスラム金融商品のインデックスなどは他のインデックスとそれほどパフォーマンスは変わらないケースが多く、リスクを軽減化できている可能性が高い。
誤解4:株式のみに投資できる
こうした誤解があるというのは筆者は初耳である。株式だけでなく、スクークと呼ばれるイスラム債、タカフルという保険など様々な分野でイスラム金融が開発されている。
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大抵の金融商品に該当するようなイスラム金融商品は存在すると考えて差し支えない。但し、デリバティブなどに近いものについては宗派や国によって扱いが異なる。イスラム金融先進国のマレーシアは相対的に見て緩い傾向がある。
誤解5:イスラム教国で活動する企業への投資に特化している
イスラム金融だからと言って、その投資対象事業がイスラム教国でイスラム教徒だけのために行っている事業であるとは限らない。多国籍企業もあるし、IT企業などであればそもそもターゲットが宗派で限定されることも無い。
S&P/TOPIX 150 シャリア指数というものがあるが、これは日本の大型優良株を150社選んS&P/TOPIX 150指数からシャーリア基準を満たさない企業を除外した指数である。
この指数に入っている企業は日本の大企業であり、イスラム教国でイスラム教徒のために事業を行っているわけではない。この指数がもしETF化されればイスラム金融の投資対象であるわけで、上記は誤解であることが分かる。
しかしこの誤解、非イスラム教徒だけでなくイスラム教徒も同様の誤解をしているケースが見られるという。
マレーシアやインドネシアなどの金融機関も、通常の金融機関とは別にイスラム金融専門の事業者を作っている場合が多い。
例えば、前述のHSBCは世界的な金融機関だが、上記のスクークを発行しているのはHSBC Malaysiaのイスラム金融部門であるし、マレーシアの代表的な金融機関CIMBやMaybankも、CIMB IslamicやMaybank Islamicといった子会社がある。
イスラム金融の枠組みでは、その部門が独立していればOKであり、グループの親会社が従来の金融機関であっても問題はなく、事業の担い手は非常に多様である。
参考文献
City AM, “Islamic finance 101: Debunking the common myths”, 1 Oct 2019