公営住宅制度改革で揉めるマレーシア

2018年の新政権誕生以来、マレーシアのズライダ・カマルディン住宅・地方政府相は、低所得者向けの公営住宅を提供する国民住宅プログラムPPR: Program Perumahan Rakyat)改革を掲げ、マレーシア住宅プログラムPPM: Projek Perumahan Malaysia )への変更を求めている。

改革案は、

  • 公営住宅施設の刷新
  • 供給方法の中心を賃貸から販売にシフト
  • 販売価格の上昇

が肝だが、まだまだ貧困者が多いマレーシアにおいてはペナン政府などを中心に反対意見も多い。本稿では、改革が掲げられている背景や制度上の違いなどを整理する。

政府がPPR改革を掲げる背景

マレーシア政府がPPR改革を掲げる背景には以下の3つがある。

  1. 販売価格と市場価格の乖離による再販問題
  2. 外国人への再賃貸問題
  3. 公営住宅の老朽化問題

都市部のPPRは賃貸利用が中心だが、地方では販売も行われている。700平方フィート(約65平方メートル)の住宅が、半島側では35,000RM(約92万円)、サバ州とサラワク州では42,000RM(約111万円)と低価格である。賃貸の場合も、家賃は月124RM(約3,300円)とマレーシアの物価や所得水準から考えても非常に安価である。

要するに公営住宅の性質上、市場価格よりも大幅に供給されているわけだが、問題なのはPPRによる融資を受けて公営住宅を購入した場合、10年経過すると転売することが可能となっている点である。これにより1の再販問題が生じ、貧困者対策のはずが投資目的の購入者の餌になっている。

また、購入した公営住宅を再賃貸することは禁じられているが、市場価格との乖離から、2のように外国人に再賃貸も横行している。カマルディン住宅・地方政府相は、昨年6月にも外国人に再賃貸しているPPR物件所有者に対し3ヶ月以内に立ち退かせることを指示し、従わない場合に所有権取消措置などの警告をしている。(NNA ASIA)

3について同相は、1970~1980年代に傾斜地を中心に建設された集合住宅が老朽化し、廃墟化したものが犯罪の温床になっていることを問題視しており、再開発が必要と主張している。特にセランゴール州にあった「ハイランドタワー」の1993年の崩壊事故では48人の死者が出ており、象徴的な出来事となっている。(National House Buyers Association)

現行制度PPRと新制度PPMの違い

こうした現行制度PPRの問題(特に市場価格との乖離による再販・再賃貸問題)から、新制度PPMでは全体的な価格の引き上げが求められている。主な制度上の違いを以下にまとめる。

これを見て分かる通り、再開発により面積は広くなるが、価格帯が大幅に引き上げられることが分かる。それだけ現行制度による販売価格と市場価格に大幅な乖離があることを意味しているが、反対意見も多い。

問題解決は遠い

例えば、ペナン州の州議会議員であり住宅都市計画自治体委員会議長を務めるジャグディープ・シン・デオ氏は、貧しい人のために現行制度PPRにおける賃貸方式の維持は重要であると主張している。州政府は10月だけでも1,051件の住宅申請を受けており、改革後の制度でも住宅の10%は賃貸方式での供給を提案している。

特にペナンは観光客の増大による不動産価格の大幅な上昇により、観光の恩恵を受けられない住民が生活できなくなっているという問題もあり、制度の維持は重要だというのが州政府の立場だ。

関連記事:ペナンの世界遺産ジョージタウンの空洞化問題

また、ケバングサン大学で貧困研究を行うデニソン・ジャヤスーリア氏も、特に都市部で現行制度のような賃貸による公営住宅供給が必要という認識を示している。シンガポールの住宅開発庁(HDB)がモデルとして良いとも指摘している。

不動産価格の高騰が深刻なシンガポールでは、国民の80%がHDBの公営住宅で暮らしており、つい最近も住宅補助金の対象年齢を引き下げるなどを行っている。

関連記事:シンガポールで住宅補助金の対象年齢引き下げ

B40と呼ばれる低所得者層はマレーシアにおいても大きな問題だが、マレーシア政府としては貧困率を低く見せたいという思惑もある。また、不動産開発業者は一連の再開発を含めた制度改革を支持しているので、暫く問題の解決は遠そうである。

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参考文献

[1]Bernama, “Penang to focus on rent-to-own method for PPR home ownership”, 8 Nov 2019

[2]malay mail, “Govt welcomes redevelopment of public housing, PPR, says Khalid Samad”, 28 Sep 2019

[3]Property Hunter, “The Poor Still Need PPR Rental Scheme”, 19 Sep 2019

[4]FMT news, “Scheme to replace PPR almost finalised, says Zuraida”, 22 Sep 2019

[5]National House Buyers Association, “Highland Towers Collapse”

[6]NNA ASIA「〔新政権〕国民住宅、外国人への賃貸解消指示」2018年6月7日

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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