東南アジアではQR決済などモバイルウォレットの利用率が高い。これは以前に紹介したGlobal Digital Report 2019でも、東南アジアではインターネットユーザーのうちモバイルウォレットで決済を行った人の割合が高い傾向が分かる。(データについては下記記事最下部スライドの204ページ)
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しかし、決済の多くが電子化されているわけではなく、eコマースについては表題の通り代引き決済が多いという興味深いデータが示された。
先日、スタンダード・チャータード銀行のシンガポール法人がCash digitisation in ASEANというタイトルのレポートを公開した。digitiation(デジタイゼーション)は「アナログ情報をデジタル情報へ変換すること」(weblio)であり、ASEANのキャッシュレス化についての動向を調査したものである。
そのうち、”Is cash still king?”(現金は未だ王様なのか?)という節で以下の表が示されている。これは、ASEAN6ヶ国の銀行口座保有率や代引き決済の利用率などについてまとめたものである。
このうち重要なのが一番右側のCash on delivery for internet purchase(インターネット購入時の代引き決済)である。先進国であるシンガポールを除き、マレーシア、フィリピン、タイは半数前後、インドネシアは65.3%、ベトナムに至っては90%以上がeコマース利用時の支払いで代引き決済を利用しているのだ。
インドネシア・フィリピン・ベトナムのようにBank Account(銀行口座)保有率やCredit card ownership(クレジットカード保有率)が低いこともあるが、マレーシアやタイのようにデビッドカードの普及率が高くても、代引き決済利用が高い国もある。(デビッドカードもオンラインで利用できるケースは多い。)よって、これらの理由だけで代引き決済の多さを説明できない。
代引き決済が多い理由としてレポートでは次の4つの理由が挙げられている。
- デジタル決済の仕組みや使い方の理解の欠如
- 財務記録の機密性に関するプライバシーの懸念
- 現金が未だ最も単純で簡単な支払い方法だという認識
- 中小企業を中心に依然として電子決済のコストを負担することに消極的
表を見て分かる通り、モバイルウォレット自体の普及率は東南アジアでもまだまだである。しかし、ベトナムのMoMoを見て分かる通り、ユーザーが1,000万人を超えるようなモバイル決済サービスが存在することを見ても分かる通り、銀行口座やインターネット環境を持つ人とそうでない人とのモバイル決済に対する見方が大きく異なる。
こうした背景を考慮すれば、1と3については経済的な理由などで電子決済に消極的な人が多く持つ意見と思われる。
2と4についてはサービス提供者に関係する問題である。店頭での購入にモバイル決済を利用する人が多い一方で、eコマースの支払い方法としては代引き決済を利用するという「歪さ」は、電子決済の方法よりもプラットフォームの安全性や利便性が大きく関係するだろう。
参考文献:Standard Chartered, ” Cash digitisation in ASEAN”(PDF注意)