毎年シンガポールでは各国のエネルギーの専門家や政策立案者などが集まるシンガポール国際エネルギー週間(SIEW)という国際会議が行われる。第12回となる今年は10月29日~11月2日まで開催されている。そのオープニングでシンガポールのチャン・チュン・シン貿易産業大臣が今後の太陽光発電政策について語った。
電力需要に対して太陽エネルギーの利用を強化するシンガポール(The Straits Times)
- 現在のシンガポールの太陽光発電容量は260MWp(メガワットピーク)で総電力需要の1%未満
- 2030年までに現在の7倍以上である2GWp(ギガワットピーク)に増やす計画(総電力需要の約4%)
- 太陽光発電の強化は2000年代初頭以来の石油から天然ガスへのシフトの次なるステージ
- 目標達成のために屋根、貯水池、沖合の海域、建物の垂直面などを最大限に展開する計画
- 長期的には地域の送電網と接続することで安定供給もつなげる
- 低酸素技術に関する幅広い研究(水素燃料、炭素回収技術、エネルギー貯蔵技術など)に投資
補足
屋根だけでなく海上や建物の垂直面にまで設置するというのは極めて野心的な計画だが、シンガポール国立大学シンガポール太陽エネルギー研究所のトーマス・ラインドル博士によると、
- 石油と天然ガスの価格が現在の水準を下回らない限り目標は達成可能
- 1MWpを超える大規模な屋上設置の場合なら、太陽光発電のコストはすでに一般的な商用電力料金および卸売市場価格を下回っている
と指摘している。
一方で特殊な場所で設置するとなればコスト面が問題となり、垂直面への設置となればビル群自体がもたらす日陰の問題、雨期の問題など懸念も多い。
それでもシンガポールは少ない人口と狭い国土を活かした強力なトップダウン政治により、2000年代から急速に石油から天然ガスにシフトし、今や総電力量の95.3%を天然ガスで賄っている。天然ガスは化石燃料の中では最もクリーンなエネルギーである。
政府の方針として次なる段階として太陽光発電の強化を示している以上、活発に投資が行われる可能性は高い。これは、米国など人口密度が高かったり日射照度が強かったりする地域で太陽電池が行き渡り、成長が鈍化していることを考えれば、次に伸びてくる地域としては有望と考えられる。
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2030年時点で総電力需要の約4%と言えば大した量に見えないかもしれないが、シンガポールの約35万世帯の年間電力需要を賄える量である。シンガポールの総世帯数は123万世帯(2015年)であり、
周辺分野の研究については特にエネルギー貯蔵技術に力を入れるようで、送電網との接続も含め、長期的視点に立った計画と言える。
参考文献[1]:The Straits Times, “Singapore to ramp up use of solar energy for power needs”, 30 Oct 2019