完全自動運転車が航空業界に与える影響

よほど運転が好きという人でない限り、乗車時間が長いほど体力的にも精神的にも疲れるので、飛行機を利用することを好むだろう。

しかし、ドライバーの操作を全く必要としないレベル5の完全自動運転車であれば、自動車の中で食事をしても睡眠を摂っても良いので、乗車時間が長くても運転するよりストレスは軽減されるはずだ。

そのような観点から、様々なシナリオにおいて「自動車を自分で運転することによる旅行」「完全自動運転車による旅行」「飛行機を利用した旅行」のどれを好むかについて米国の消費者を調査したのが今回紹介する研究である。

紹介するのはInternational Journal of Aviation, Aeronautics, and Aerospace(IJAAA)に掲載された エンブリー・リドル航空大学の研究者による論文である。

参考: Rice, S., & Winter, S. R. (2018). To Drive or Fly: Will Driverless Cars Significantly Disrupt Commercial Airline Travel?. International Journal of Aviation, Aeronautics, and Aerospace, 5(1). https://doi.org/10.15394/ijaaa.2018.1222

旅客機による旅行と言っても、地下鉄やタクシーを使ってフライト時間より余裕を持って空港に到着する必要がある。そこで、行程を想定したシナリオを用意し、その中でどの選択肢を採用するかを調査している。

例えば、ワシントンDCの郊外にあるバージニア州のフェアファクス在住と仮定し、ニューヨーク市のエンパイアステートビルを観に行く事を想定する。(15:00を到着予定時刻とする。)15:00に着くにはニューヨーク空港に14:00に到着しなければならない。フライト時刻はその1時間前の13:00、出発元の空港には余裕を持って11:00に到着、家から空港までは1時間かかるとする。

つまり、飛行機を利用する場合は10:00-15:00と5時間かかる。同じ行程をすべて自動車を使っても5時間だ。

このシナリオが最も短距離で航空機のメリットが少ないが、全部で5つの行程を用意し、それぞれは、

  • 自動車だと5時間、航空機だと5時間(ワシントンDC→ニューヨーク)
  • 自動車だと7時間、航空機だと5時間(カンザスシティ→シカゴ)
  • 自動車だと11時間、航空機だと6時間(デトロイト→アトランタ)
  • 自動車だと21時間、航空機だと6.5時間(アリゾナ→ニューオーリンズ)
  • 自動車だと45時間、航空機だと7.5時間(シアトル→オーランド)

であり、距離が長いほど航空機とかかる時間が変わってくる。最後のシナリオは北西部ワシントン州から南東部フロリダ州までを移動する米国における直線距離で最も長い旅行だ。

それぞれのシナリオでの設問は3つあり、

  1. 手動運転と飛行機のどちらが良いか
  2. 自動運転と飛行機のどちらが良いか
  3. 到着地でレンタカー利用を前提とすれば、手動運転と飛行機のどちらが良いか

である。

下図は、上の選択肢において「1. Manual Cars」、「2. Driverless Cars」、「3. Need a Rental Car」よりも「飛行機を利用する」という回答の割合である。最後のTotal Reductionは1と3の差分である。

各シナリオで「飛行機の方が良い」という回答の割合
出典: Rice, S., & Winter, S. R. (2018: 4)

手動運転5時間のケースでは飛行機でも時間がそれほど変わらないので、1/3程度の人しか飛行機を選択していないが、7時間となると4割、11時間を超えてくると8割以上の人が飛行機を選択すると回答した。(45時間のドライブでも運転を選択する人が1割ほどいるのは驚きだ。)

しかし、完全自動運転となるとその割合は変わってくる。特に影響が顕著なのは運転時間が「7時間」と「11時間」であり、完全自動運転と手動運転を比較すれば、どちらも16.7%の人が自動運転を選ぶと回答している。

一方で、乗車時間があまりに長くなるとそれほど差が出なくなる。こうしたことから、超長距離に関しては自動運転車が飛行機での旅行客を奪う割合は限定的だが、中距離程度であれば強く競合する可能性があることが示唆される。

いくら運転をしなくても良いと言っても、あまりに長時間にわたって車に乗っていることは体力的にしんどいので、差が出る範囲が長すぎず短すぎずというケースであることが分かる。

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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