要約
- splinternet(インターネットの分断)の概念に注目が集まっている
- 将来的に米国側と中国側でインターネットが分断する可能性がある
- ロシアやアラブ諸国の動きを見れば情報統制の為にインターネットを独立させる事は普通のやり方
“splinternet”:中国と米国はインターネットを世界の国々をどのように分割するのか(CNBC)
- ダボスの世界経済フォーラムでsplinternetの概念について議論された
- インターネットが別々の規制によって管理されて細分化することをいう
- 中国と米国それぞれのアプリケーションを使う国々で二分化するという予想
- 中国は5Gや人工知能など互いに関連する技術分野についても積極的なことも理由
5Gの経済的意味:インターネットは分断の危機にあるのでしょうか?(AL JAZEERA)
- 米中だけでなく、プライバシー保護への関心が高まる欧州などタコツボ化する要素は多い
- インターネット分断の問題は、インターネットに接続できない35億人にこそ重要な問題
- ワイヤレスで伝送できるデータ量を増やす技術である5Gは、まず世界中をつなげる事に使うべき
解説
今後主流となっていく5Gネットワークで覇権を取るための競争という観点で米中の競争が取り上げられがちであるが、最近ウォール・ストリート・ジャーナルでもコラムが書かれたように、インターネット自体が分断する方向に向かっているのではないかという言説が増えてきている。
splinterner(split + internet;スプリンターネット)という用語は少なくとも2004年以前から利用されてきた言葉である。当初は「インターネットが少数の業者に分割されてしまうことを危惧する言葉」(imidas)であったようだが、現在は国や地域レベルで政治・宗教などの理由で技術的にインターネット空間が完全に分断してしまう事を指すようだ。他にもcyberbalkanization(cyber + balkanization:サイバー空間のバルカン化)というように、バルカン紛争に伴う諸国乱立に例える言い方もある。
中国がグレートファイアウォールで大規模な検閲を行っていることは有名だが、そもそも論としてインターネット空間自体を独立させてしまえば、より完全な情報統制が可能である。例えば山本(2008)が詳細に論じているように、例えばアラブ首長国連邦では独裁政権を維持するために自国民向けにはプロキシを通した「閉じたネットワーク」を利用させ、ドバイなど経済的に開放したい地域のみ自由なインターネットを提供しているといったケースがある。
他にもロシアが独自のインターネットの構築やインターネット通信を隔離しようとする動きも見られ、先進諸国を中心にHuaweiを5Gネットワークから排除しようとする動きも見れば、米国陣営と中国陣営でインターネットが分断(split)するという未来も有りえない話ではない。
また、そもそも世界の半分の人はインターネットにアクセスできない状態であり、「インターネット自体の分断」だけでなく「インターネットアクセスの有無による分断」もあり、アクセスできない人が「どこに繋がるのか」といった将来的に生じる問題もある。
これは特定の国が資金援助や開発などを理由にインターネット網で囲い込むという可能性もあるし、「どちらのネットワークに入るのか」という問題が生じる国もあり、真剣に考えていかなければならない問題である。
参考文献
山本達也(2008)「アラブ諸国の情報統制―インターネット・コントロールの政治学」慶應義塾大学出版会
CNBC, “The ‘splinternet’: How China and the US could divide the internet for the rest of the world”
AL JAZEERA, “5G economics: Is the Internet in danger of splitting?”