各報道によると、ギリアド・サイエンシズ<GILD>は、抗ウイルス薬レムデシビルの米国および他の先進国政府への販売価格を、5日間のコースで2,340ドルに決定した。国ごとの交渉で時間がかかることを避けるための一律価格で、市場で予想されていたよりも相当に安い。
例えば薬価監視団体が挙げていた妥当な販売価格は5,000ドルであり、その半値以下ということになる。
新型コロナウイルスにおける自粛経済から完全に解き放たれるには有効なワクチンの開発が必要であり、レムデシビルのような抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑えるのみと言われ、最終的には患者の免疫にかかる。レムデシビルの場合は報道によれば4日程度入院日数を短縮させると見られている。これは決して世界を大きく変えるような薬ではないが、有効なワクチンが無い状態では貴重な存在である。
レムデシビルの開発コストは10億ドルを超えるという推定もあり、2,340ドルでは大きな収益にならないという見方もあり、一部のアナリストは格下げしたが、多くのアナリストは「割安」という見方を維持している。
これは、ギリアドが過去にC型肝炎治療薬で莫大な利益をあげたという「悪いイメージ」で、好業績・好財務を維持しているにも関わらず低い株価で留まっているからである。
最近のギリアドは、どちらかといえばその悪評を払拭するための経営を行っているところがある。社会貢献的な分野がそうで、そもそもレムデシビルも元々はエボラ出血熱治療薬として開発されていたものである。
エボラ出血熱はアフリカで猛威を奮っているが、今のところ現地の経済水準や医療体制などから考えれば、すぐに大きな利益を出すのは難しい分野である。そうした病気への薬の開発は単純に利益よりもイメージアップ効果のほうが短期的には大きい。だからギリアドはレムデシビルも商用生産の体制が整うまでは無償供給していた。
有効なワクチン開発が進んでいるという報道もあるが、変異の早いウイルスである新型コロナウイルスは、ワクチンがもしできても効果は短いのではないかという見方もある。そもそも「風邪の一種」はワクチン開発が大変であり、あまり楽観的になるのは得策ではない。そういう意味で、ギリアドはまだまだ中長期的に期待できるコロナ銘柄と言えよう。
参考文献[1]:ブルームバーグ「ギリアド、レムデシビルの価格2340ドルに設定-5日間の治療で」2020年6月29日
参考文献[2]:日本経済新聞「レムデシビル1人25万円 コロナ薬、ギリアドが価格決定」2020年6月30日