「それ何に使えるの?」と聞かれたら

何らかの専門分野をバックグラウンドに持つ人であれば、特に抽象的なテーマほど「それは何に役立つのか?」「それは何に使えるのか?」という質問が出てくるという経験はあるのではないか。この時、一般的な実例を挙げてもいまいち相手に伝わらないケースが多い。本稿は、それが何故かについての筆者の狭い経験に基づく考察である。

筆者は機械学習や人工知能をテーマに人前で話す機会が増えてきた。専門的な内容を話すのではなく、いわゆる概論を話すだけであれば「算数」までのレベルで解説することはできるが、残念ながらあらゆる数学に拒否反応を示す人にとっては、算数が出てきた時点で話を受け付けなくなる。筆者の説明の仕方にも責任はあろうが、世の中には少しでも数字や記号が出てくると話を聞けなくなる人は確かに存在する。

そんな人が決まって出すのが冒頭の通り「それは何に使えるのか?」である。初心者向けにはディープラーニングだけでなく様々な手法がありますよという話をすることが多いが、理論的詳細に立ち入らずに手法を紹介しても、なかなかイメージがつきにくい。そこで出てくるのがこの質問だ。

勿論、筆者は一般的な実例をいくつか紹介する。機械学習は冒頭で挙げた「専門分野」の中では実例を挙げやすい分野であり、例を挙げるだけなら簡単である。でも相手はその答えに納得しない

筆者の拙い経験から至った結論は、質問の中には「それは(質問者にとって)何の役に立つのか」「それは(質問者の興味範囲の中で)何に使えるのか」が入っているケースが多いというものだ。

そもそも、この質問が出るケースには大きく2つケースがあると考えている。それは「筆者の話を興味を持って聞いた上で、新規事業などでどう活かせるか等を考えて質問するケース」と「筆者の話を聞かざるを得なくなって苦し紛れに質問するケース」だ。

前者の場合、そもそも興味を持って聞いているのだから、普段からそれなりにニュースなどで機械学習について見聞きしているはずである。そのような相手に一般的な実例を出しても「既知の内容」であり、求める回答にはならない。

後者の場合(上司の命令でセミナーに参加せざるを得なかった場合など)、いやいや話を聞いているわけだが、その上で出てくる質問が「それ何に使えるのん?」である。こうした人はそもそも関心が薄いので「ふーん」という反応が出る確率は高いが、話し手としては「もっと良い回答ができたら」と不満が残る。

いずれの場合も、「相手が興味を持つものは何か」を聞いた上で、或いは事前情報などから想像した上で、それに関連する応用例をその場で考えて提示するのが有効だろう。

前者の場合はそもそも自身のビジネスに役立てるなど特定の目的がある。だから、それに直接関係する「あまり知られてなさそうな応用例」を出してあげると喜ばれる。後者の場合も「絞り出してくれた質問」である。相手の興味や趣味などマッチするような実例を出すと喜ばれる。

尤も、相手の興味が「非常にマニアックなもの」であった場合、即興で応用例を挙げたり考えたりするのは大変難しい時がある。聞いたこともないような分野に興味があると言われても、必ずしも対応できないかもしれない。

それを防ぐためには、例えば機械学習ならAI白書など実例を沢山吸収しておき、それだけでなく日頃から様々な分野の事に興味を持ってニュースを見たり本を読んだりといった情報収集が必要となる。

これは前述の通り、筆者の狭い経験に基づく考察である。しかし、他の分野においても、同様の「質問」は多く生じているように思える。特に初心者向けに話す場合には多く発生し、その回答が不満そうであったら、相手の興味分野を聞いてみることが状況の打開につながるかもしれない。

独立行政法人情報処理推進機構(2020)『AI白書 2020』KADOKAWA

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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