【書評】分子レベルで見た薬の働き

新型コロナウイルスでバイオ関連銘柄に注目が集まっているが、この界隈は競争が激しく事業リスクも高いため、投資が難しい分野でもある。筆者も新型コロナウイルス関連で有望な企業の一つであるギリアド・サイエンシズ<NASDAQ : GILD>は保有しているが、大きな値上がりを狙ってというよりかは、基本的に一時的に株式市場の反発があろうとCLOショックなどマーケットに大きな爆弾があるという前提に立ったポートフォリオの中で、早期に問題が解決されてしまう「リスク」に備えるためである。

それでも、創薬やバイオ関連のプレスリリースなどに書いてある内容をある程度理解できる程度のリテラシーはあった方が望ましい。この種の発表には分子モデルを使って薬がどのように働くかについて説明されるが、知識が無いと何を書いてあるかは分からない。

『カラー図解 分子レベルで見た薬の働き なぜ効くのか? どのように病気を治すのか?』(ブルーバックス)は、細菌やウイルスに対する薬がどのように働くかを分子レベルで理解することを目的とした入門書である。2009年に発売された同名書の図解をフルカラー化し、薬剤耐性など最新の話題を加筆して2020年2月に発売されたものだ。

複雑な分子構造の図や組成式は非常に取っ付きにくいものだが、本書では細胞の仕組みから、細胞のタンパク質にいかにして薬を働きかけるかについて、豊富な図解を用いつつ、丁寧に説明されている。立体構造については基本的にステレオグラムとなっており、立体視を用いてタンパク質分子の構造を見ることができるという点でも面白い。

1章で基本的な分子構造や目標とする生体分子(標的分子)にどのようにしてアプローチしていくかという事についての仕組みや類型が丁寧に説明されている。2章では抗生物質を例に、その研究の歴史も踏まえてより詳細に説明される。ここまでに出てくる仕組みや用語をまずしっかりと熟読として理解すると、その後の章が読みやすい。

各論で取り上げられている薬も、抗生物質であるペニシリンや糖尿病で使うインスリンなど有名なものが多く、2章までをしっかりと理解できていれば読み進めるのに苦労しないだろう。

求められる前提知識は殆ど無い。「水兵リーベ 僕の舟」くらいは分かっていた方が読み進めるのは楽(HやCなどが何を意味するかまでは知っていることが前提となっている)だが、それ以外は高校化学を殆どやっていない人であっても難しくないはずだ。

強いて言うなれば、随所で日本の政治の悪い面を取り上げて批判しながら例える記述が出てきており、特に例えが巧いわけではなく蛇足と思われるが、全体として一つ一つの分子構造を丁寧に回折しながら薬の働きが説明されており、良書であると言える。

平山令明(2020)『カラー図解 分子レベルで見た薬の働き なぜ効くのか? どのように病気を治すのか? (ブルーバックス)』講談社

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