一見、(日本が進めているような)既存のカジノと、オンラインカジノでは没入感と顧客層の間にトレードオフ関係があるように見える。
既存のカジノは、顧客を外に出さないための仕組みを数多く取り入れている。とにかく長時間カジノに滞在してもらってお金を落としてもらうという戦略だが、箱物という性質を考えれば、カジノがある場所にまで行かなければならず購入までのハードルは高い。
一方でオンラインカジノは(各国の法規制の問題を除けば)世界中どこからでもアクセスすることができ、顧客層は広いように見える。しかし、オンラインカジノは成長率は高いものの既存のカジノの売上を取っているだけとも言える。
現状ではギャンブラーがギャンブルをする場所が移動しただけであり、市場全体のパイを増やすには、更なる付加価値が必要である。
その中で注目されているのがライブカジノである。ライブカジノは、実際にディーラーがいるカジノとライブストリーミングし、ディーラーとカジノゲームをプレイする環境である。視覚効果と音響効果による没入感を意識しており、いわゆるライブ体験を向上させる仕組みである。
ルーレットやブラックジャック、ポーカーなど既存のカジノゲームを中心に、画面の向こうにはリアルタイムでディーラーが存在しギャンブルができる。例えば以下のPragmatic Playによるライブカジノのプロモーション動画(特に00:55~)はそのイメージがつきやすいだろう。
ライブカジノという概念自体は以前から存在するが、2020年1月は立て続けに大きなライブカジノサービスがローンチしている。
一つはMansion Groupが運営するオンラインカジノブランドCasino.comが、ギャンブルソフトウェア会社playtech<LSE: PTEC>と共同開発したライブカジノスタジオである。
Casino Beats, “Casino.com launches live casino studio via Playtech”, 21 Jan 2020
もう一つはライブカジノサービスを手掛けるEvolution Gamingが、米国ニュージャージー州とペンシルベニア州でカジノを運営するParx Casinoと提携してライブカジノを運営すると発表したことである。
SBC AMERICAS, “Evolution to power live casino for Parx in New Jersey and Pennsylvania”, 10 Jan 2020
前者は純粋にオンラインカジノの付加価値上昇という意味合いだが、後者は既存カジノとオンラインカジノの共存例と言える点で異なる。後者の場合、単にカジノコンテンツの提供だけでなく、顧客層拡大のためのマーケティングとしての性質もあるだろう。
また、単なる映像と音声だけにとどまらず、ライブカジノにVRを取り入れる仕組みが今後進んでいくと考えられるのは以前にも指摘した通りである。それにより更なる没入感が得られるというのが狙いである。
実際、ライブカジノの注目度は年々高まっている。以下はGoogleトレンドにおける”live casino”の検索トレンド(2016年1月1日~2020年1月22日:すべての国)だが、2019年頃からじわじわと注目度が高まっていることが分かる。
2020年1月が特に多いのは、前述の新サービスのローンチと季節変動が影響していると思われる。冬季が多くなるのは「オンラインカジノにおける年末のプロモーション増加(キャッシュバックなど)」が主因として考えられる。他にも寒い時期の方がオンラインカジノの需要は多いかもしれない。