スズメバチは日本で最もポピュラーな昆虫食材だった

人口増加と環境変化により将来的な食糧供給への懸念から、植物由来肉や人造肉、昆虫食といった様々なタンパク質供給源が提案され、そのスタートアップも増えている。

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一方で最近話題になったものとして、アース製薬が2020年1月20日に発売したばかりのスズメバチ駆除剤がある。これは「毒餌」であり、春先に設置しておけばスズメバチが巣に持ち帰り、1週間ほどで巣が壊滅するというものだ。巣に近づくことなく駆除できるので非常に注目されている。今のところ楽天市場などではすぐに売り切れてしまったようである。

参考:PR TIMES「日本唯一※1 巣に近づかなくても巣ごと退治できるスズメバチの巣駆除剤!『 スズメバチの巣撃滅 駆除エサタイプ 4個入 』」2020年1月14日

一方で、特定の巣を狙うわけではない無差別性から「生態系が崩れる可能性」といった批判も目立つ。特に引用されているのは以下のツイートのようである。

「スズメバチが比較的高次の捕食者である点も重要」など、いかにも尤もらしい事を書いているが、その上に人間がいたことを忘れている。

今でこそ「ハチノコ」などスズメバチの幼虫は珍味や郷土料理として一部地域や愛好家に食べられるのみであるが、元々は非常にポピュラーな食材であった。

松浦(1999)は、江戸時代から現代までの日本における昆虫食についての文献レビューを行っており、少なくとも 江戸時代にはスズメバチは食べられており、大正期には日本全国で食べられていることが分かっている。また、太平洋戦争中に文部省が行った昆虫食についての調査では、イナゴ以上に最も全国的に食用として利用されていた昆虫がスズメバチであることが分かっている。

その調理法は、幼虫なら煮付けや醤油漬け焼き、場合によっては生食など様々にある。成虫についてもハブ酒のように酒に漬けるだけでなく、炒めものや揚げ物などに使われる。こうした手法は今も日本各地で郷土料理として残る。

これだけ全国的にスズメバチが食用とされていたが、現代は一部を残して衰退してしまったということは、それだけスズメバチにとっての「天敵」がいなくなったということである。

スズメバチの毒はアナフィラキシーショックの危険性があるので、人間にとって敵だという認識が強いが、元々はスズメバチにとって人間が天敵である。それを食さなくなった以上、適度に間引いてやることが寧ろ生態系の維持にとって重要である。

参考文献:松浦誠(1999)「日本における昆虫食の歴史と現状」『三重大学生物資源学部紀要』22巻89-135

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