退職年齢引き上げに揺れるマレーシア

マレーシアで退職年齢引き上げについての要望が上がっており、引き上げの為の調査研究を始めるようだ。しかし、その腰はまだまだ重い。

政府は退職年齢引き上げの提案を調査する方針(Bernama)

  • マレーシア労働組合会議(MTUC)が「民間労働者への500RM(118.4USD)以上の生活手当の導入」もしくは「2020年予算で退職年齢を65歳に引き上げ」を提案
  • M・クラセガラン人的資源大臣は、退職退職を60歳から65歳に引き上げる提案を検討すると明言
  • 労働力不足の傾向と多くの外国人労働者の受け入れの状態で、退職年齢の引き上げは将来的に国益をもたらすと述べた
  • 失業者の大半は若者で、雇用機会を増やすためのスキル習得や職業訓練プログラムへの参加を促す

解説

マレーシア政府が退職年齢引き上げの方針を示した背景には以下の3つがあると考えられる。

  1. 隣国シンガポールでの退職年齢引き上げ方針
  2. 労働力不足
  3. 外国人労働者流入の抑制方針

1が先日シンガポールのリー・シェンロン首相が政策方針演説で示したもので、当サイトでも詳しく内容を解説した。

関連記事:シンガポールの退職年齢・再雇用年齢引き上げの概要と狙い

隣国シンガポールとは経済的に密接な関係があり、ジョホール州など隣接地域は日々国をまたいで通勤する労働力も多い。こうした状況により、東南アジアの先進国としてのシンガポールに追随するメリットは大きい。

2については、以下のマレーシアの失業率の推移を見れば分かる。2015年頃までの不況期から脱したマレーシアは、中期的に失業率は低下傾向を見せ、2019年6月時点で3.3%である。

それだけ労働者が不足しているということであり、労働需要は十分に存在する。また、東南アジア全般に言えることだが、IT産業の成長に人材の量とスキルが追いついていないという実態もあり、ベテランが中長期的に活躍する場は多い。

3は1と相矛盾するようだが、シンガポールと労働者の移動が多い一方で、テロリストが入り込むといった事態も発生しており、ジョホール州などは外国人労働者の受け入れを厳しくする方向性である。

こうした意味合いでも国内で労働者を確保する必要性もあり、中長期的には退職年齢の引き上げのメリットがある。

関連記事:マレーシア・ジョホール州が外国人労働者の流入規制を計画

一方で、マレーシアの合計特殊出生率は2.02と比較的高く、2070年頃までは人口減少に転じないと言われている。

高齢化問題が深刻なシンガポールとは状況が異なり、積極的に退職年齢を引き上げようとするインセンティブが存在せず、全体としては腰が重いと見られる。

参考文献:Bernama, “Govt will study proposal to increase retirement age”, 2 Sep 2019

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