米国で大学の学費を無償化するとどうなるか

民主党のエリザベス・ウォーレン氏とバーニー・サンダース氏は、多くの大学生が学資ローンを抱えて大学に行くことを背景に、大学の授業料の無償化を提案している。これを厳しい学歴社会である米国で実現するとどうなるかについてブルームバーグはわかりやすく解説している。

その帰結は以下の2つである。

  1. 大学は仕事に役立つようなトレーニングを提供しなくなる可能性
  2. 企業が仕事に無関係なレベルの過剰に高い学歴を要求する可能性

現在は大学は学術的な研究・教育だけでなく、卒業後に役立つようなトレーニングを提供することも行っている。これは「学生を集めるため」であり、就業を意識した大学選びの重要性については当サイトでは以前にも取り上げた。

関連記事:米国の大学がハイリスク・ローリターンなのは学費だけが原因ではない(2):米国留学のためのチェックポイント

大学の学費が無償化するなら放っておいても学生が集まりやすくなり、敢えて卒業後の事を意識する必要は無く、大学の本来の在り方としての「研究者の養成」だけを意識すれば良くなる。これが第一のポイントだ。

第二のポイントが、「皆が大学に行ける」のであれば企業は「ますます高学歴を求めるようになる」という当然の帰結である。

今でも米国では学士ですぐに就職できる人はそう多くはない。殆どの人が大学に行くようになれば、もっと求められる大学や学位が高くなるだろう。

もっとも、修士や博士をとっても、多くの仕事では大学で学ぶ内容は必要無いので社会的にはかなり無駄なコストである。

こうした背景にある考え方が「資格認定スクール」と「シグナリング」という2つの仮説である。

どちらも相反する考え方ではないが、前者は「大学を出ていないと就職しにくい」という事象を説明することに重きを置く。後者は「企業は大学で学ぶ内容を見ているのではなく、大学を適切に卒業できるだけの努力や仕事を覚えるための素養(記憶力や理解力など)を見ているだけ」という点に重きを置いている。

どちらも過剰な学歴社会を説明するのに使われる仮説だが、多くの国で成立していることが多い。

大学無償化は聞こえは良いが、「隠れたコスト」というのも気にする必要がある。

参考文献:Bloomberg, “The Hidden Cost of Free College”, 12 Jul 2019

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