前回、米国人の多くの感覚として「大学の学位が高い学費(もしくは学資ローン)に見合っていない」というCNBCの調査結果を紹介し、その背景には学費だけでなく「卒業できないリスク」も大きいことを示した。
前回記事:米国の大学がハイリスク・ローリターンなのは学費だけが原因ではない(1)
CNBCの記事の続きには「大学のROIを向上させる」ためのチェックポイントが示されている。ここにもハイリスク・ローリターンの背景が見えてくるので順に紹介していこう。
また、これは米国の大学に留学を検討している人にとっても良いチェックポイントとなるだろう。
1. 大学の卒業率を確認すべき
前回記事で紹介したように、せっかく高い学費を払って大学に行っても中退してしまえば高卒者と比べてあまり収入で恩恵を得られない。
そこで米国教育省によるCollege Scorecardを使って、各大学の卒業年限を比較し、卒業率を比較することを推奨している。
参考:U.S Department of Education, “College Scorecard”
専攻分野や地域、学生数などで検索することができ、それぞれの「年平均コスト」「(標準修業年限150%以内の)卒業率」「卒業後の平均年収」などを閲覧することができる。
標準修業年限の150%を基準としている時点で「四年制大学を四年で卒業できないのは普通」というニュアンスが伝わってくるが、四年制大学において六年間での卒業率が有名大学であっても70%を切るケースも珍しくない。前回紹介したCNBCの調査でも、6年での卒業率は60%に過ぎない。
記事によると、卒業率が高い大学は、学生ができる限り標準年限以内に卒業できるような個別サポート(個別指導や助言、別クラスへの移動など)が手厚いケースが多いという。
2. 仕事や生活と関連する経験ができる大学を選ぶべき
過去の調査研究では、(当然の話だが)自身が卒業した大学のコースと現在の仕事や日常生活と関連性があると考えている人ほど、大学の学費に見合った教育を受けたと考えている人が増える。
日本でもそうだが、大学に入る前から卒業後の具体的なキャリアを決めている人はそう多くは無い。しかも米国の大学の場合は最初の2年間は一般教養が中心で、専攻は後から決める場合が殆どである。
だからこそ、課外活動や企業と提携したインターンシップなど卒業後のキャリアを意識したカリキュラムを用意した大学を選ぶべきだと記事では進められている。これは教授の意識やメンターの有無などもそうで、大学名だけで選ぶべきではないというのが主張である。
3. 賢く借りるべき
学資ローンの問題が深刻なのは当サイトでも何度か指摘しているが、問題になりやすいのは民間による融資である。
特に問題となっているのはParent Plus Loanと呼ばれるもので、両親のわずかな与信調査のみで全学費を借りられてしまう悪名高い学資ローンで、平均金利は7.6%に達する。
これよりまだましなのが住宅担保貸付であると述べられている。これでも平均金利は5.5%である。Parent Plus Loanにいきなりいくのは、金融機関の融資を検討もせずに、いきなりサラ金に行くようなものである。
そして記事では、連邦政府による学資ローンに「固執すべき」だとしている。これは民間融資には無い安全弁が多く組み込まれており、様々な返済オプションや返済猶予などがある。
4. 大幅な専攻変えをしてはならない
前述の通り、米国の大学は入学後に専攻を決めることが多く、また複数分野を専攻するダブルメジャーも珍しくはない。
一説では米国ではダブルメジャーである学生が1/4に達するとも言われる。即戦力重視の採用市場である米国においては、就職に強い分野を選ぶだけでなく、より多くの強みを持つことが重要なので、結果的に複数専攻も増えているのである。無論、卒業にかかる年数が長期化する一因にもなっている。
多くの分野を学ぶのが珍しくない以上、分野を転向することも珍しくない。転向先が近い分野であれば共通する単位も多いが、大幅な分野変更であれば新たに取得しなければならない単位が大幅に増えるので、結果的に卒業するのにそれだけ時間とコストがかかるようになる。
CNBCの記事では、
- 早いうちに専攻を決められる大学
- 履修順序が決まっているコースが少ない大学
を選ぶことを提案している。
また、卒業後に就職市場で需要がある分野を意識し過ぎて、全く興味の無い分野に進んだ結果、大幅に専攻変えをしてしまうケースも多いので、興味のあるテーマに進むべきだともしている。
日本の大学であれば、興味が無い分野に進学して勉強をあまりしていなくても卒業できる大学が多いが、米国の大学だとそうはいかないからだ。卒業できなければ全てがパーになる。
以上を見れば、全体的に「卒業できること」が非常に重要であることがチェックポイントに入っていることが分かる。卒業が難しい米国の大学ならではのチェックポイントだが、学費以外の面も多く見えてきて興味深い。