2018年12月にProject Libraという名前で発表されていたFacebookのデジタル通貨ネットワークの正式名称がGlobalCoinであり、2019年末までに通貨の運用テストを開始する計画を明らかにした。
参考:BBC, “Facebook plans to launch ‘GlobalCoin’ currency in 2020”, 24 May 2019
同社は2020年第1四半期までに約12ヶ国でデジタル決済システムを構築することを計画している。 銀行口座を持たない人々が送金する安価な方法も提供するために、Western Unionなどの送金会社とも協議している。
普通預金口座で口座維持手数料がかからない日本の銀行ユーザーにとってはイメージがわきにくいが、海外では口座維持手数料が高くて銀行口座を持てない人は多数存在する。以前に紹介したアフリカにおけるフィンテックによる取り組みなどもその一種である。
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貯蓄や送金、電子決済に対する潜在的な需要は発展途上国を中心に莫大な数が存在するが、成功には沢山の障害が存在する。
規制の流れ
既存の通貨システムを脅かす或いはマネーロンダリングなどのリスクから、暗号通貨(仮想通貨)に対する規制を行う国が増えている。現に、Facebookにとって重要なターゲットであったインドが暗号通貨の全面禁止を検討するなど雲行きは怪しい。
参考:Cointelegraph, “Report: India Considers Complete Ban on Digital Currencies”, 26 Apr 2019
Facebookはまた、米国財務省から運用・規制上の問題に関する助言を求めているが、以前から米国は暗号通貨には消極的である。
競合の問題
Facebookの強みはその莫大なユーザー数であり、展開できる地域が多いほどネットワーク効果によって通貨としての有用性が高い。それこそがFacebookのGlobalCoinが注目されている理由だ。
しかし、同種の取り組みは他にも存在する。例えば同じSNSでも一定地域では圧倒的な人気があるテレグラムの暗号通貨GRAMなど直接的に競合するシステムが存在する。
信頼の問題
冒頭のBBCの記事でも指摘されていることだが、Facobookは個人情報の保護などでの懸念が高まっている。GlobalCoinを使うということは、支出に関する細かいデータと個人情報が紐付くわけで、それを懸念するユーザーが多いのではないかという問題だ。
その問題をクリアした上で「現金を暗号通貨に交換してもらう」というハードルをクリアしなければならない。たとえ銀行口座をもたない人でも、例えば電子マネーなどへのチャージなどで価値を貯蔵し、モバイル決済などを利用するなど手段は他にもある。
通貨価値の安定性の問題
ビットコインを見ていれば分かるが、暗号通貨のボラティリティは非常に高い。投機目的としては面白いかもしれないが、日常利用としてはあまりにも価値が不安定である。
一方で、発展途上国の中には自国通貨の価値が非常に低いケースも多い。そうした場合には、ユーザー数が多く、ある程度価値が安定してくれば乗り換えるケースはあるかもしれない。現にビットコインが部分的にそういう役目を担っている。
しかし、多くの場合は米ドルが価値貯蔵の手段として有用視されており、自国通貨が「ババ抜きのババ扱い」で、基本的に米ドルが流通しているという国は結構多い。
以上のようなリスクを理解した上で、それでも長期的な未来に賭けられるのでない限り、この種の通貨への長期投資は辞めた方が良いというのが筆者の私見である。