世界的には牛乳の生産量は伸びているが、日本や米国など先進国を中心に牛乳市場は縮小しつつある。先日、米国酪農家協同組合(The Dairy Farmers of America: DFA)は、2018年の牛乳売上高が前年比7.5%減の136億ドルだったと発表した。
実際、米国における牛乳販売量は2010年から減少傾向にあり、2018年は販売量こそ前年から増えたものの、価格が大きく値下がりした結果、売上高ベースで大幅に減少することになった。
2018年の牛乳価格の下落は、供給ベースで増加しているにも関わらず、チーズの国内在庫が46ヶ月連続で前年同期比を上回るなど需要を押し下げる要因が大きかったからである。
DFAの会長兼CEOのリック・スミス氏は、2018年が酪農家にとって「困難な年」になった原因として、この牛乳価格の低さも挙げているが、その他に植物由来の代用乳(植物ミルク)の需要の伸びも大きいと指摘している。
代用乳は、アーモンドミルクやココナッツミルク、豆乳など植物性由来の「ミルクと呼ばれるもの」で、alternative milk(代替ミルク・代用乳)という呼び方だけでなく、酪農牛乳(diary milk)に対してnon diary milkと呼ばれたりもする。逆に酪農牛乳をtraditional milkと呼ぶケースが見られるなど、代用乳の勢いはそれだけ強い。
特にアーモンドミルクの売上は大きく、その伸びも著しい。市場調査会社Mintelによると、米国におけるアーモンドミルクの販売額は2018年で14.57億ドルに達し、2023年には18.75億ドルまで成長すると予測している。
個別企業で見れば、2018年7月には米国で代用乳などの製造販売を手がけるCalifia Farmsが5,000万ドル以上の資金調達をするなど、その成長は著しい。
世界的にも代用乳の市場規模は2017年時点で119億ドルと推定されており、2024年までに340億ドルを超えると予想されている。
ここまでで代替ミルクや植物ミルクという名称に違和感を覚える人も多いだろう。アーモンドミルクにせよココナッツミルクにせよ、これらのミルクは植物の乳液(latex)という意味合いとしては正しいが、(当たり前だが)牛乳のような動物からの泌乳(乳腺からの分泌)ではない。
栄養価から見ても完全な代替とは言えない。以下は、文部科学省の食品成分データベースより普通牛乳・低脂肪乳・無調整豆乳の栄養価、アーモンドミルクの例として砂糖を利用していないポッカ アーモンド・ブリーズの栄養価を示している。
これによると、アーモンドミルクは低カロリーとビタミンEの多さに特徴が見られるが、動物性である牛乳ほどカルシウム・カリウム・タンパク質は多くない。豆乳に関しても、カリウムは牛乳並の多さ、マグネシウムの豊富さなどの特徴があるが、カルシウムは少ない。
こうした状況から、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、植物性の代用乳を「ミルク」と呼ぶことで、消費者に栄養価について誤解を与えているという懸念を示している。こうした背景には酪農業界からの年間200万ドル以上におよぶロビー活動もある。今後もアーモンドミルク市場は伸びていくと思われるが、こうした政治的な動向にも注意する必要がある。
参考文献
Fast Company, “Don’t cry, but milk sales plummeted by $1.1 billion last year”
Hoard’s Dairyman, “The 2018 milk prices could be the new normal”
CNBC, “Here’s the serious reason the FDA doesn’t want almond milk to be called ‘milk’”