要約
- AT&Tの5G Evolutionは実態としては4G-Advancedであり速くない
- しかし本物の5Gだからと言ってユーザーレベルで速いとは限らない
- ユーザーレベルで恩恵を感じやすいのは超多数端末接続・超低遅延・超高信頼性
AT&Tの偽物の5Gは競合他社の本物の4Gより遅い(FAST COMPANY)
- AT&Tは4Gネットワークの改良版を5G Evolution(5GE)として宣伝している
- Arts Technicaによると、スピードテストでは5GEはT-MobileやVerizonの改良版4Gよりも遅い
- AT&Tはスピードテストの方法論に問題があると主張
- 実態として5GEは他社のLTE-Advancedと呼ばれるものであり技術的な優位性は無い
解説
記事の通り、AT&Tが言う5G Evolutionは実態としては他社の4G-Advancedと呼ばれるものであり、記事中の表現を使えば”Fake 5G”なのだが、例え本物の5Gだったとしても一般ユーザーレベルでは速いとは限らない。(10Gbps以上という高速化要件はあるが、ここではあくまでもユーザーレベルでの話である。)
5Gの要件には様々なものがあり、例えば日本では5GMF(第5世代モバイル推進フォーラム)がホワイトペーパーで技術的要件を定めている。
これは非常に長い上に項目が多いので、5GMFが要約した5Gの要件が非常にわかりやすい。
- 高速・大容量化
- 超多数端末接続
- 超低遅延、超高信頼性
- 省電力化、低コスト化
ユーザーレベルで実感できるのは「超多数端末接続」と「超低遅延、超高信頼性」であると思われる。
超多数端末接続は、今後IoTなどでネットワークにつながる端末が爆発的に増えることに対応するための要件である。しかし、個々のネットワークはそれほど速いものが求められているとは限らない。
例えば、農地で大量の湿度センサーをつけ、定期的に時刻と湿度をネットワークに送信するだけならば、一つ一つのデータ量は少ないので、速度は求められない。
「超低遅延、超高信頼性」については、前者はミリ秒単位、後者は99.999%が求められる。これも決して高速とは限らない。
最もわかりやすい例は自動運転だ。自動運転にかかる計算は、基本的に自動車が画像を判別し、搭載されたシステムが行う事になるだろうが、判断をアシストするための情報(GPSや交通情報)を定期的に受信する必要がある。
GPSの場合、直接GPSを受け取るだけでなく、モバイルネットワークでの修正も含まれるので、遅延があってはならない。また、ネットワークが途切れた事によって重要な交通情報が受信できなかったということもあってはならないのだ。
こうした超多数端末接続・超低遅延・超高信頼性を実現するために使われるのが、数十メートル単位で配置される小型基地局である。5Gの電波は非常に直進性が高いマイクロ波を利用するので、速い代わりに届きにくい。それを解決するために、計算資源を備えた多数の小型基地局が端末に近い場所で計算して情報を送信するという形が取られる。
このことによって低遅延で信頼性が高いネットワークが実現するものであり、必ずしも個別の速度が速いとは限らない。
参考文献
FAST COMPANY, “AT&T’s fake 5G is slower than rivals’ real 4G”